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TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介図書委員からの推薦図書 2013 Vol.2Daniel P. Aldrich 著 『Building Resilience Social capital in post-disaster recovery』 The University of Chicago Press 20122005年ハリケーンカタリーナで被災したニューオリンズのヴィラージュ・ド・エスト地区にあるヴェトナム人地区は2年後に人口が被災前の9割にまで回復していたが、貧困率でみればほとんど同じ9区では5年経過した後も人口は被災前の3割5分にすぎなかった。 人々や組織間のネットワーク、規範、信頼、そしてそれらが醸し出す協調性などを総称してソーシャル・キャピタル(社会関係資本)と呼んでいる。本書は、副題にあるように、大災害の被災地において、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が復興の過程で人口回復に果たす効果を、1923年の関東大震災、1995年の阪神淡路大震災、2004年のインド洋大津波、2005年のハリケーンカタリーナの4つの事例からのデータ分析によって明らかにした話題作である。復興の程度は、従来は被害の程度、行政の対応、外部からの支援の多寡、人口密度などに規定されるといわれてきたが、本書の分析によれば、地域における社会関係資本こそが回復への原動力(core engine of recovery)であるという。ただし、社会関係資本は負の側面を持っており、回復の過程で、多数派から外れた人々を排除することにもなるという。東日本大震災を経験した我々にも示唆に富んだ良書である。 浜井浩一編 著 『犯罪統計入門〔第2版〕犯罪を科学する方法』 日本評論社2012犯罪「統計」に関する本なので数字や表・グラフがたくさん出てくる。とくに本書の大半を占める【第2部 犯罪の測り方】は、多数のデータをあげて数値の意味や見かたを説明しているので、文系あるいは法学部の学生にとっては多少の拒否反応が現れるかもしれない。でも、数字に抵抗を感じたときはその箇所はどんどん読み飛ばしてもかまわない。本書の要諦は【第1部 犯罪研究の方法】である。ここを叮嚀に読むと、数字やグラフの背景にあるものが見えてくるはずだ。公表されている犯罪統計とはどのようなものか、犯罪対策が打ち出されるときの根拠となる統計値は何かなど、こうしたことの意味をまず理解することが重要なのである。ここでは統計における妥当性と信頼性、科学的根拠(エビデンス)といった概念の重要性が説かれているのだが、日ごろ接している犯罪や犯罪統計に関する報道や、それに基づく刑事立法や犯罪対策が、科学でなく信仰にすぎないことがよく解る。さらに、本書が対象とする犯罪統計に限らず、さまざまな政策決定の根拠となっている統計の意味を知ることの大切さも見えてくるのではないだろうか。 立法や政策を真に論じなければならない法学部の学生にこそ、是非読んでもらいたいと思う。 Arend Lijphart著 『Patterns of Democracy: Government Forms and Performance in Thirty-Six Countries, 2nd ed.』 Yale University Press 2012本書は、政治学者レイプハルト(Arend Lijphart)の代表作の一つといえる。本書は、1999年に刊行されたものの第二版であるが、内容的には、1984年の著書の改訂版であるともいえる。レイプハルトが民主主義の二つのモデルを提示したのは、1984年のDemocracies: Patterns of Majoritarian and Consensus Government in Twenty-One Countries, New Heaven: Yale University Pressが最初である。 その後、彼は、比較研究の対象国数を増やすとともに、分析視点をさらに広げて、1999年にPatterns of Democracy: Government Forms and Performance in Thirty-Six Countriesを刊行した。1999年版は、粕谷祐子訳『民主主義対民主主義:多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究』として、勁草書房から2005年に翻訳が出ている。 既に欧米の政治学においても、我が国の政治学においても、レイプハルトによる民主主義の二つのモデルは、共通の知識として広く普及しており、常識と化しつつある。その意味でも、2012年に刊行された第二版は、レイプハルトの議論の最新版であり、注目に値する一冊として挙げることができるだろう。 木下広居 著 『イギリス政治史話』 時事通信社1961まさに「巻を措く 能わず(かんをおく あたわず)」という言い方に相応しい一冊だ。1961年に出版されているから、かなり古い本である。でも、法学部の学生諸君には、ぜひ読んでもらいたい。例えば、イングランド型君主制の特長や「国王 対 議会」の権力闘争(いわゆるイギリス革命)、議院内閣制誕生秘話、さらには、ディズレーリとグラッドストンの性格の違いまで、現代イギリス政治の奥深さを理解する手がかりが、エッセイ調で分かりやすく書かれているからである。とにかく面白いし興味深い内容なので、簡単な年表などが手元にあれば、歴史嫌いの人でも十分読みこなせるだろう。 筆者の木下広居は、1902年熊本県生まれ。東京帝国大学法学部政治学科を卒業後、旧制松江高等学校教授を務め、戦後は参議院法制局調査課長などを歴任した。本書は、参議院法制局調査課長時代に書かれたものである。木下は1981年に没したので、本書にサッチャーの話は――当然だが――書かれていない。そのサッチャーも、今年4月、神に召された。木下がサッチャーやブレアを見たら、どのように描いたであろうか。興味は尽きない。 |