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TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介図書委員からの推薦図書 2013 Vol.3Andre Wakefield 著“The Disordered Police State:German Cameralism as Science and Practice”The University of Chicago Press 2009ウェイクフィールド(以下,W.と表記)の『紀律なきポリツァイ国家――科学と実践としてのドイツカメラリズム』は,英語で書かれた数少ないカメラリズム(官房学)研究書である。 本書は,本文が144頁で比較的小著の部類に属するとはいえ,新しいカメラリズム解釈,カメラリスト像を提示することを目的とした,きわめて野心的な著作である。W.は,カメラリズムを政治・行政ではなく経済・財政の領域から解釈することを要求している。さらに当時の社会が紀律化されていたという主張に対しても,無紀律が支配していたとする正反対の内容を展開する。原典研究と,現地の公文書館に残されている史料研究を同時に行うことで,カメラリズムの真実の姿に迫ろうとするW.は学界にカメラリズムへの新しい視点を提供するのである。図書館にはA.W.Small著Cameralists(1909)が所蔵されている。これをW.と比較しながら読むとおもしろいであろう。 道垣内弘人著『典型担保法の諸相』有斐閣 2013この著書は,これまで道垣内教授が書いてきた担保法総論と典型担保に関する論稿を集めて一冊の論文集にしたものである。著者がいうように体系的な記述ではなく,その都度の問題意識に基づいて個々の論文が書かれており,それぞれの論文は短いものであるが,これまで考えられなかった新たな問題点を指摘する等知性の閃きといったものを感じさせるものとなっている。そのため,これまでの通説・判例によってしか考えてこなかった者にとっては思いもしなかった議論が展開されており,自分自身の頭で考えるとはどういうことなのかということを示してくれており,末弘厳太郎の『民法雑記帳』等の一連の著作に似た面白さを感じさせるものである。論稿の半分強が判例研究になっているので,学生諸君が講義で学んだ判例を自分自身で考えるとき,この著書から得るところが多いと思われる。また,序章 担保物権法総論第1節「担保物権法学の歩みと今後」から第4節「担保の侵害」で扱われている4つの論文はこれからの担保物権法のありかたを考えさせるものとなっている。個々の論文は短いものであるから,目次を見て自分の興味を引く論文を読んで,担保物権法の面白さを感じていただきたい。 蓑谷千凰彦著『これからはじめる統計学』東京図書2011この本の前身は名著『統計学のはなし』です。筆者は以前この名著を愛用,しかしながら掲載されている統計データが古くなってしまい,疎遠になっていたところ,最近,この本がデータも新たに出版されました。新しい版ではマンガの挿絵が無くなってしまったのが残念ですけれども,ティー・タイムの方は健在です。何が学生に深い印象を与え,記憶に残るかというと,脱線です。例えば,「8.4.正規分布の例」の後,ティー・タイムの項で「ド・モアブルは正規分布の最初の発見者,『生命年金』における確率論の統計への応用,確率母関数の概念を最初に与えた人として忘れることのできない人です。1754年ロンドンで“睡眠過多症”で死去したとき87歳でした。」と脱線し,続けて「8.5.正規分布の重要性」で「正規分布に従わない観測結果が得られた場合,それはデータが不足しているか,データのとり方が悪いからである,というような19世紀の『正規分布信仰』は無くなりましたが,しかし,正規分布が統計学においてもっとも重要な分布であることは確かです。それは次のような理由にもとづいています。」と5つの理由をあげて本筋にもどっています。この本筋と脱線のブレンドが素晴らしい。 チャールズ・マレー著 橘明美訳『階級「断絶」社会アメリカー新上流と新下流の出現』草思社 2013皆さんは現在の日本が非常に大きな階層間格差に直面してることを,それこそ子どもの頃からマス・メディアやインターネットを通じて見聞きしていたと思います。我が身の問題と考えていない人が多いかもしれませんが,この国では大学生であるということが実はそれだけで恵まれているのです。それでも,心あれば,何となく下層の人々が身の回りにいることを感じていると思います。 |