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TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介図書委員からの推薦図書 2012 Vol.4Reinhard Richardi , Jan Wilhelm , Thomas Lobinger編 『Festschrift für Eduard Picker zum 70. Geburtstag』 Mohr Siebeck 20102010年11月3日に70歳の誕生日を迎えたエドアルト ピッカー教授を祝うための記念論文集である。本書は,第一部 民法及び訴訟法,第二部 労働法,第三部 法制史及び決定的な問題設定の三つの部分からなり,第一部には,40本の論文,第二部には18本の論文,第三部には10本の論文が掲載されている。ざっと見ても興味を引く論考として,第一部では,①カナリスの「債権者の帰責性によるBGB326条2項による反対給付請求の存続」,②エルンストの「有償性」,③シーマンの「損益相殺という難題」,ベスターマンの「ヨーロッパ契約原則における不当利得請求権の内容,範囲及び発展」,第二部では,④マテスの「労働争議に起因する営業危険からの決別か」,第三部では,⑤シュレーダーの「フイリップ ヘックと自由法運動」,⑥チィマーマンの「諸契約の解釈:国家を超えるモデル規律のテキスト段階」等がある。本書は民法・民事訴訟法・労働法等を研究するものにとっては貴重なものとなっており,ここに挙げたもの以外にも興味深い論考が多く掲載されているので,ドイツ法に興味のある人,特に大学院生は,この論文集の目次をみて興味のある論文を読んでいただきたい。 根田正樹=大久保拓也編 『支払決済の法としくみ』 学陽書房 2012商品やサービスを受けたとき,その代価を支払う必要がある。その支払・決済方法には,最も単純な金銭による決済から,小切手(有価証券という金銭代用の「紙」の利用)や,電子マネー(電子媒体の利用)へと多様化している。本書は,この多様化する支払決済の仕組みと法規整をできる限りわかりやすく解説するテキストである。本書は,決済システムの全体像を提示したうえで,決済のしくみを,支払,与信,送金という「機能」に分けて解説する。この観点から,これまでの決済方法(約束手形等)のみならず,オンライン化の進展による新たなシステム(クレジット・カード,銀行振込等)についても取り上げている。後者については,新しいシステムであるがために,想定されていない新しい紛争が起こる可能性もある。その解決のためには,同様の問題に関するこれまでの裁判例における法解釈を踏まえておく必要があり,これについても詳述している点にも特色がある。また今日,金融機関における支払決済が高度に複雑化しているため,その内容を「ビジュアル化」してわかりやすく説明し,読者の便宜を図っている。金融機関への就職を希望する者にも一読を勧めたい一冊である。 Adam Smith著 『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』 Oxford University Press 1976スミスの『国富論』は政治経済学の古典中の古典であり,本書は経済学史上,19世紀以降に分化したあらゆる学派の源流である。すべての学説は,多かれ少なかれ本書を素材にして,それを批判したり修正したりすることを通して発展してきた。しかし,政治経済学の原型としての本書は,ただの経済理論として誕生したのではない。それは,当時の人文学や社会諸科学についての広範な考察を母体にして,産み落とされている。また,それは諸財貨の単なる数量的関係を,いわば即物的に問題にしているのではない。諸財貨の生産と交換の機構分析が,近代社会の市民相互の道徳感や法感覚と結び付けられているし,その規範的あり方とも関連付けられている。このように本書が人文学や社会諸科学に結び付けられており,それが理論の書であると同時に思想の書である点は本書の1つの大きな特徴である。即ち,人間と社会に関する豊かで細やかな観察に基礎を置いており,人間的真実を多く含んでいることである。また本書は,近代市民社会の経済的機構を理論的に分析しているだけでなく,この機構が封建制を切り崩しながら,どのような曲折をへて成立したかという歴史分析を含んでいる。 秋山賢三著 『裁判官はなぜ誤るのか』 岩波新書 2002財田川事件、足利事件、ごく最近では東電社員殺人事件と、以前より冤罪事件が後を絶たない。本書では、先ず裁判官として冤罪請求事件に向き合い、その後も弁護士の立場から冤罪事件に携わる著者が、なぜ優秀な裁判官が誤判をし、冤罪事件が生まれてしまうのかを検討し、「市民のための裁判」には何が必要かについて提言がなされている。誤判の原因として著者は、「嘘の自白」をさせられた人の訴えを、自ら被疑者・被告人と接見して親身に聞くという体験が裁判官に乏しい上に、検察官の供述調書を読んで心証を形成することに慣れているため、自白を録取した供述調書が理路整然と迫真的に書かれているとし、被告人の供述よりも供述調書の方を信用してしまい事実認定を誤ること、マスコミ報道に毒され、裁判官が被告人に対し予断・偏見を抱いていることなどを挙げる。その上でそうした誤判を防ぐために、「人間知」「世間知」の不足を自覚すること、常に「庶民の目」を持ち続けることなどの裁判官のための実践則を提言する。裁判官と弁護士の経験に基づく著者の提言は、より実践的で多方面に及び、非常に説得力を持って述べられているため、裁判のあり方について深く考えさせられる書である。平明な言葉で、深い法的知識の無い者にも非常に分かり易く書かれており、一読することを勧める。 |