|
TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介図書委員からの推薦図書 2012 Vol.3Andrew Le Sueur 著 『Building the UK’s new Supreme Court: national and comparative perspectives』 Oxford Univ. Press 2004本書は2005年憲法改革法により新しく設置され,2009年秋より運用が開始された英国史上初の最高裁判所に関する本である。英国史上最初の最高裁判所が設置されると言っても,他の諸国からみればごく当たり前のように響き,今更目新しい興味は引かないかもしれない。けれど英国では中世から今日まで6世紀以上にわたって,また19世紀末の上告管轄権法が成立してから数えても,ゆうに130年以上に渡って,最高裁の機能は,独占的に貴族院の上訴委員会に委ねられてきた。しかし2005年法はその長い歴史に終止符を打ったのである。その意味でそれは画期的な決定であった。その現代的意味は何か。また,合衆国や日本の最高裁と比較してどこが類似していてどこが異なるのか,本書はそれを如実に考察し,叙述している。かつてバジョットは『英国憲法』のなかで「英国人の最高裁は,立法部という服の裏側に隠されているべきでない」と述べた。なぜなら「はっきり目に見える偉大な法廷であるべき」だからである。それが今日ようやく実現された。このことを本書は多角的かつ比較法的に考察している。 和田 八束 著 『日本の税制』 有斐閣 1988日本政府は「消費税」を増税使用としている。その理由は,日本の財政赤字の解消,社会保障と税の一体化で議論されている。最近の政治家や官僚は本当のことを言わない,ウソをいうので気をつけないといけない。そこで「消費税」がどのように導入されたかについて書かれた本書を推薦したいと思う。複雑な日本の経済・税制の中にどのように「消費税」が導入されていったかを知り,今回の「消費税」増税が適切な税制改革かどうか判断できる知恵を身につけ,次回の選挙の時に自分の1票を行使してほしい。もちろん「消費税」増税については,マスメディアや他の書物にも叙述されているのでそれらも読んで自分の考えを作っていただきたい。本書は,消費税が導入された昭和の末から平成のはじめにかけての日本の税制について検討されている。サブタイトルは,当時の日本の税制の総点検と新時代への選択である。本書の第1部「税制の現状」は,第1章で「税金とは何か」第2章から第4章では,直接税・間接税・地方税の仕組みと現状が叙述され,第5章で「税制の国際比較」が記されている。第2部は,「税制改革の動向と問題点」のなかで,消費税の導入過程やその他の税制改革の動向と問題点も詳述されている。 Jan Teorell著『Determinants of democratization :explaining regime change in the world,1972-2006』Cambridge Univ. Press 2010ここで挙げるのは,Jan Teorell, Determinants of Democratization: Explaining Regime Change in the World, 1972-2006 (Cambridge: Cambridge University Press, 2010)である。本書は,民主化の要因が何であるのかを主たるテーマとしており,いわゆる「民主化の第三の波」の時期に世界各国でみられた民主化の要因に関して,実証的な検討を行っている。研究対象となっている国の数は全165か国であり,統計的な分析が行われているが,それだけにとどまらず,アルゼンチン,ボリビア,ハンガリー,ネパール,ペルー,フィリピン,南アフリカ,トルコ,ウルグアイなど9か国についての事例研究もなされている。 ディヴィッド・ブルックス 著,夏目 大 訳 『人生の科学:「無意識」があなたの一生を決める』早川書房 2012異なった生い立ちのハロルドとエリカの二人が育っていく話に絡めて,幸せな人生と学校の成績は関係ないことを説く。しかし,教養が大切と思わせ,いろいろな本を読んでやろうという気にさせる。立花隆の本の米国バージョンといったところでしょうか。主人公の一人,ハロルドのモデルは著者のDavid Brooksだと思わせる。物語の後半が生彩を欠くのは,まだ著者が実際に体験していないことを書いているからでしょう。この本の発売時(2011年3月),著者は49歳。ともあれ,アメリカの文化人がどのような教養を身にまとい,それは日本の文化人とは違うということを知るのに,良い本です。本書の主題「無意識」と関連する知識は脳科学,心理学,行動経済学,哲学など多岐にわたる。本の題名とその内容のさわりだけが書いてあるのだったら,単なる読書案内で,この書評みたいに面白くもなんともない。ハロルドとエリカが実際に成長していく成功物語の過程でどんな本が,どんな影響を与えたかが書いてあるから面白い。読者もまた,こうした教養を身につけ,人生を成功させたいと願うかもしれません。周囲の人に引きずられてではなく,視野を広げて,自分の生き方を模索する助けになるでしょう。 |