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TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介2023 Vol.2篠原久, 只腰親和, 野原慎司訳『イギリス思想家書簡集 : アダム・スミス』名古屋大学出版会 2022年2023年はアダム・スミス生誕300年記念の年となります。本書は2022年に公刊されたものですが,2023年を意識しての作業であったことは想像に難くありません。本書には本学経済学部が所蔵しているスミス書簡「ウォートン宛 X-d-48(会食辞退)」と「カデル宛 VII-2(『道徳感情論』新版に言及)」が収められています。 小林昭三著『日本国憲法の条件』成文堂 1986年昭和時代の一風変わった憲法の本です。「憲法のいわゆる体系書でも概説書でもない。むしろ,日本国憲法の,また日本国憲法をとおして近代憲法の問題点のいろいろを示そうとした本」(278頁)です。日本国憲法はその成立した時代の諸条件によって支えられていました。時代とともにその条件が変化し,憲法規定と現実のギャップを生み出しています。「日本国憲法の出生が特異であっただけに,憲法の規定についてそれの成立過程を見つめ,吟味することは,日本国憲法を〝知る〟うえでぜひなされるべきこと」(2頁)と著者は強調します。今更,そんなことはどうでもいいではないかとのつぶやきが聞こえてきそうです。勇ましい改憲論でも寛容さに欠ける護憲論でもありません。「世間の荒波にもまれて必死になっている憲法の姿を気にかけて,そのような憲法の生きざまを見,憲法の真実を探す姿勢」(276頁)で,時代に翻弄されるその姿を描いています。このような接近法による憲法の研究を,著者は「憲法政治学」と呼んでいます。一般の憲法解説書に慣れた目には違和感に満ちた本でしょう。しかし,その違和感の正体を考える読者には,これまで知らなかった憲法の本当の姿を見せてくれます。類書のない一冊です。 アダム・スミス [著] ; 高哲男訳『道徳感情論 : 人間がまず隣人の,次に自分自身の行為や特徴を,自然に判断する際の原動力を分析するための論考』講談社 2013年近年,AIの研究が盛んになっています。AIにはさまざまな種類があり,さまざまな応用が考えられます。そのうちのいくつかの特徴として,具体的なケースに関する判断を直観的に行っている,という点が挙げられます。例えば,将棋では従来,「居玉は避けよ」や「桂馬の高跳び歩の餌食」などの,格言が存在していました。これは,具体的なケースに関する判断ではなく,一般的にそういうことが成り立つ,という考え方です。ところが,将棋AIが発達してくると,これらの格言は実際には成り立っておらず,ケースバイケースで評価をしなければならない,ということが分かってきました。道徳の領域において,似たようなことを考えていたのが,アダム・スミスです。スミスは,正義以外の徳について,あらかじめ正確なルールを作ることはできないし,作る必要もない,と考えていました。そして,ケースバイケースに判断する主体として,公平な観察者という概念を持ち出します。公平な観察者は,十分な情報を与えられた状態で,特定の立場に与せずに道徳的な判断を下す,内心の声であるとされます。これは現代で言うAIのようなものなのでしょうか? みなさんはどう考えますか? アンネッテ・ヴァインケ著 ; 板橋拓己訳『ニュルンベルク裁判 : ナチ・ドイツはどのように裁かれたのか』 中央公論新社 2015年ロシアによるウクライナ侵攻の文脈で,国際刑事裁判所(ICC)という単語をニュース等で耳にした方も多いでしょう。本書はICCとも関連が深いニュルンベルク裁判について扱われたものです。法廷では,ホロコーストを始めナチスドイツによる戦争犯罪が明らかにされたのみならず,「平和に対する罪」など新しい罪の規定も見られ,これらは現在の国際法体系の一部を構成しています。本書ではまず,アメリカなど連合国内において,ドイツの主要戦争犯罪人の処罰にいかにして対応するかについての議論が整理されています。その中で目を引くのは,チャーチルがいわゆる「アウトロー」計画―ナチ指導部「無法者」であり「法の保護を剥奪された者たち」であるとし,訴訟手続きを不要として処罰する計画―を提唱したことです。このような計画は,アメリカの反対もあり,国際軍事法廷の創設へと転換していきました。 スティーヴン・シャヴィロ著 ; 上野俊哉訳『モノたちの宇宙 : 思弁的実在論とは何か』 河出書房新社 2016年アメリカの哲学史家・批評家である著者は,カントの相関主義に対する批判を共有する思弁的実在論(メイヤスー,ハーマンなど)を整理する一方で,この現代の潮流と比較しながらイギリスのホワイトヘッド(1861‐1947)の哲学を分かりやすく紹介しています。 |