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推薦図書紹介
2022 Vol.2
ヴァンダナ・シヴァ著 ; 山本規雄訳『アース・デモクラシー : 地球と生命の多様性に根ざした民主主義』明石書店 2007年皆さんは,ヴァンダナ・シヴァという人をご存じでしょうか。1952年にインドに生まれ,農業問題,環境問題等に積極的に取り組み解決策を模索している人です。 農業問題と言われても,ピンとこない人が多いでしょう。しかし,ウクライナ紛争を考えてみても,小麦,トウモロコシやひまわり油の輸出が滞り,食糧の価格高騰どころか,国によっては深刻な食糧不足により飢餓まで懸念されています。このような状況は,1980年代以降のグローバリゼーションの進展と深い関係にあります。食糧の生産と消費が引き離され,誰がどのように生産したかなど全くわからないにもかかわらず,私たちの食卓は甚大な影響を受けてしまっているのです。そもそも私たちの日々の暮らしにおいて必要とされる食糧の生産と,グローバリゼーションとは親和的な関係にあるのでしょうか。 本書は,グローバリゼーションだけでなく,遺伝子組み換え作物などの食の未来,消費者の権利などに関心がある人には,これまでとは異なる視点を提供してくれるものと思います。 (髙橋雅夫教授/4F東開架 304||Sh 92) 日本出版学会編『パブリッシング・スタディーズ』印刷学会出版部 2022年マス・メディアのなかで最も長い歴史を持つ「出版」ですが,昨今のICT技術の発達による情報環境の変容とともに,その概念が拡張されるようになりました。日本の電子書籍元年といわれた2010年から十余年経った現在,デジタル化の進展とそれらのサービスの普及によって,「出版メディア」の捉え方は大きく変化しています。たとえば,電子端末にあわせて最適化される文字情報,オーディオブック,動画コンテンツとの連携など,小欄で取り上げるには枚挙にいとまがありません。紙媒体であることを自明のこととして行なってきた過去の研究手法では,もはや現代の出版市場や出版文化を論じることは不可能になりました。 そうした変化に対応するため,日本出版学会が「デジタル時代の出版研究」の手引きとなるテキストを上梓しました。この本は,出版に関する歴史・制度・産業といった総論的知見を概観したうえで,書籍・雑誌・マンガ・デジタルコンテンツ・読者といった各論へと展開する構成になっています。演習科目や卒論などで出版研究を行なう学生にとって,当該分野の最新動向を網羅した本書は必読書となるでしょう。就職志望先に出版社や編集プロダクションを考えている学生には,業界研究の一助として活用してもらいたい本です。 (石川徳幸准教授/新着図書コーナー 023||N 71.1) アダム・プシェヴォスキ著 ; 粕谷祐子, 山田安珠訳『それでも選挙に行く理由』白水社 2021年ロシアとウクライナの問題しかり,ポピュリズムの問題しかり,現在の各国の政治に目を向けたときに,あらためて民主主義とは何なのだろうかという疑問がわいてくるのではないでしょうか。民主主義国間での違いのみならず,民主主義国とそうでない国との違いも,民主主義という視座から捉え直すことが可能です。 本書は,民主主義の根幹をなす選挙に着目し,その機能や効果について,「歯に衣着せぬ鋭利な分析」を行っています。第Ⅰ部では,歴史を参照しつつ,なぜ選挙が行われるようになったのか,選挙の実態はどのようなものであったのかが論じられています。第Ⅱ部では,競合的な選挙が行われると,どのような効果(変化)が生じるのか議論されています。 主権者教育が行われるようになって久しい日本において,選挙の重要性は繰り返し指摘されてきたことでしょう。しかしながら,理想論が多くを占める主権者教育とは異なり,具体的なデータに基づきつつ,怜悧な目で選挙を捉えている本書の議論は,非常に示唆に富んだものとなっています。ここでは,「それでも選挙に行く理由」は伏せますが,ぜひ本書を手に取って,その結論を読み取ってくれることを期待します。 (三澤真明准教授/4F東開架 314.8||P 95) 最上敏樹著『国際機構論講義』岩波書店 2016年2022年のロシアによるウクライナ侵攻は,今日に至るまで戦闘が続き,多くの犠牲者が出ています。しかしながら,国際的に非難されるこの侵攻に対して,国連などの国際機構が十分な機能と役割を果たせているとは言い難いでしょう。 そもそも国連,及び国際機構はいかなるもので,どのような役割を期待されているのでしょうか。そのような問いを,国際機構論の第一人者である著者が正面から扱っているのが本書です。国連をはじめとする国際機構がいかなる歴史的経緯で構想,創設され,今後いかに発展しうるのかが論じられています。著者は,国連という仕組みは万能ではないため,国連中心主義と異なる,NGOなど多様な国際アクターが参画する「マルティラテラリズム」の重要性を説いています。 この指摘はもっともですが,一方で,ロシアによるウクライナ侵攻のような大規模な国家間紛争は,むしろ国連を中心とした枠組みが依然として重要性を持っていることを再認識させるものともいえます。国連には,安保理のみならず,総会,事務局,国際司法裁判所をはじめとする多くの組織が存在し,その潜在的な有効性は残っているからです。その意味で,国際機構論は今後新たな展開を迎えることも予期されるでしょう。 いずれにしても本書は,国際機構にまつわる様々な課題を具体例と共に詳細な解説がなされているため,その意義は大きいといえます。学部生には難解に感じられるところもあるでしょうが,国際機構に関心のある学生にはぜひ手に取っていただきたいと思います。 (本吉祐樹専任講師/4F西開架 329.2||Mo 16||B) このページのトップへ戻る
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