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推薦図書紹介
2022 Vol.4
大垣尚司著 『デリバティブ・金融工学 / 金融と法 Ⅱ』 勁草書房 2022年デリバティブとは,実態のある財産や取引,金融的な価値や損益と連動した指標の全部もしくは一部に支払が連動した経済的な収益・損失をもたらす金融的な取引や金融商品のことをいいます。これは,株式等の現物から派生した商品です。本書はさまざまなデリバティブを網羅的に取り上げ,その全体像を説明するものです。 その一例として,ストック・オプションと呼ばれる株価連動型の報酬を取り上げてみましょう。これは,役員・従業員の報酬として付与されています。もちろん金銭報酬もありますが,固定的な報酬額となるため,役員等が会社の業績を高め,株価を上げたとしてもその役員等に対するリターンも固定的な報酬額にとどまります。そのため,会社の業績をさらに高めようという意欲(インセンティブ)は高まりません。これに対し,株価連動型の報酬は会社の業績を高めれば株価も上がりますので,業績向上のインセンティブは高くなります。本書の第4章は,報酬とデリバティブの関係について図表を使いながら説明しており,大変わかりやすい内容になっています。 商法,金融法などに通じる金融関係の基本を学ぶ格好の素材ですから,ぜひ手に取って欲しい1冊です。 (大久保拓也教授/5F東開架 336.8||O 21a||2) バトラー後藤裕子 著 『デジタルで変わる子どもたち : 学習・言語能力の現在と未来』 筑摩書房 2021年近年,学生・生徒は膨大な情報に囲まれています。コロナ禍のオンライン授業もあって,それが一段と加速しました。本学部でもオンライン授業があたりまえとなり,学生は毎日一方的に送られてくる教職員からの情報を整理しきれていないようにも見えます。 先進国の多くは,コロナ禍を新しい学習形態を模索・推進する良いチャンスと捉え,デジタル・テクノロジーを教育に応用することを推進しています。しかし日本は,コロナ危機をチャンスととらえることができているでしょうか。その点について本書の著者は,テクノロジーに対する「アクセスの差」ではなく「使用の質の差」による遅れが顕著になったと見ています。 しかし,世界に後れを取らないためには,私たちもデジタル・テクノロジーの教育への応用に力を注ぐべきだろうと思います。また,君たち1人1人も,膨大な情報に埋もれたままではいけません。これからの社会を生きて行くためには,デジタル・テクノロジーに基づいて最新情報の収集と整理が必要であると言えます。 本書はデジタル・デバイスを用いた学習,特に言語学習について,最新の研究結果による科学的根拠に基づいた内容です。結論が見いだせないことは,現在わからないと明記している点が信用できます。スマホ中毒の君にも,是非一度手に取ってほしい一書です。 (野口恵子教授/3F西開架 807||B 27 ) 伊藤修一郎著 『政策リサーチ入門 : 仮説検証による問題解決の技法』 東京大学出版会 2022年本書は初めて学術的な研究調査・論文執筆に取り組む学生向けに,研究調査の基本を解説しているテキストです。リサーチクエスチョンの設定から,先行研究の文献調査,仮説の検証に至るまで,研究調査の各段階における手順が詳しく解説されています。 著者の伊藤修一郎先生は,公共政策の分野における一流の研究者であるとともに,地方自治体での勤務経験が豊富な方です。本書は,社会科学を専門とする大学生だけでなく,公共政策に関わる実務家も読者として想定されており,実践的な課題解決を念頭に置いた内容となっています。巻末の演習例のほか,テキスト全体を通じて公共政策に関する具体例が豊富で,法学部の学生にとっては非常に読みやすいテキストとなっています。 これからゼミナール論文に取り組む3年生,4年生は,是非手に取って読んで下さい。皆さんがゼミナール論文を書き進める上で,本書は力強い味方となるでしょう。 (小田勇樹准教授/4F東開架 301||I 89.2) カトリーン・マルサル著 ; 高橋璃子訳 『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? : これからの経済と女性の話』 河出書房新社 2021年2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標=SDGsの5番目に「ジェンダー平等の実現」が掲げられています。日本においても2016年以降,女性の活躍推進のための取り組みが行われてきました。とはいえ,私たちは毎日の生活のなかでジェンダー平等またはジェンダー不平等を意識することはどの程度あるでしょうか。 本書は,経済と女性という枠組みからジェンダー平等に関わるさまざまな問いを投げかけます。著者は,経済学がもつ学問としての特質や批判すべき点を指摘しながら,私たちに根付く経済学的「常識」に疑問を投げかけ,その意義を問い直すことを求めます。学界では,男性の手による伝統的な経済学から取りこぼされた女性の存在を位置づけ新たな経済学を生み出す取り組み(フェミニスト経済学)がありますが,それは,女性がいない経済学にNoを突きつける試みです。経済学は私たちの社会を構成する半分の要素を無視してきたのではないでしょうか。経済成長は,GDPには換算されない労働=家事にも支えられていたはずです。著者が,「そのステーキ,誰が焼いたんですか?」と問うのは,経済学の影,そしてそこに隠された女性の存在を浮き彫りにするためです。しかし,この問いが示すように,その語り口は決して難解なものではありません。肩の力を抜いてジェンダー平等について考えるために,本書をぜひ手に取ってほしいです。 (生垣琴絵専任講師/5F東開架 331||Ma 51) このページのトップへ戻る
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