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TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介2021 Vol.3樋口範雄著『アメリカ人が驚く日本法 』商事法務 2021年 海外から日本を見ることで新たな発見があります。外国制度と日本法制度とを比較することは,法文化の違いの典型例を知ることができる格好の素材です。 前田健, 金子敏哉, 青木大也編 ; 麻生典 [ほか] 著『図録知的財産法 』弘文堂 2021年知的財産法は,産業の発達と文化の発展に資するべく発展してきた民法の特別法であり,私たちが日常的に目にし,手に触れる物品やサービスには常に,それらの特別法でルールが策定されている何らかの知的財産がかかわっています。本書は,その知的財産に関して「中学・高校の社会科の授業で使っていたような『資料集』を作ろう」という,ユニークな発想のもとに編まれています。その大きな特徴は,本文110頁余りに収録されている図表図版の,比類ない豊富さです。模倣品を取り締まる「水際措置」であれば,関税法中の知的財産侵害物品に関する罰則規定,各税関で展示されているコピー商品の写真,財務省が公表する税関における知財侵害品の輸入差止実績の推移の表が示されます。「著作権の制限」であれば,日本の著作権法中の制限にかかわる膨大な条文の一覧,公衆の使用に供することを目的にコンビニ等に設置されている自動複製機器や,コピーコントロールが施されているCDとそこに示されている注意書き,私的録音補償金の対象となっている音楽用CD-RやMD,街並みの写真に写りこんだ巨大ディスプレイに表示されている著作物をとらえた写真。どのような場面で私たちが知的財産制度に接しているのかを徹底して取り上げており,制度の「社会実装」にかかわる理解が得られます。同時に,それらの掲載にあたり各方面に許諾を得る膨大な作業には,頭を垂れる他ありません。もう一つの特徴は,学説や判例をコンパクトに解説する一方,分野横断的なアプローチを柔軟に取り入れていることです。総論,著作権法,特許法,デザインの保護,標識の保護,不正競争防止法・パブリシティ権の6部に分けられた2~3頁から成る32項目には,映画・ゲーム,出版・漫画,さらにインターネットと,著作権法とのかかわり,特許を使ったイノベーション戦略,デザインの法的保護のように,複合的なアプローチを要するテーマが配置されています。初学者にも,知的財産制度を一定学んだ者にも,発見があるだろう書籍です。 ブリュノ・ラトゥール 著 ; 伊藤嘉高訳『社会的なものを組み直す : アクターネットワーク理論入門』法政大学出版局 2019年私達は自然(nature)と人間を区別しています。自然には微に入り細に入り観察・実験し客観的認識にまで仕立て上げます。人間には,自然支配を目指すこの認識だけではなく,特別な取り扱いを行います。チンパンジーが私達人間から排除されるのは生まれ(自然)によってですが,人間の間では何よりも人種・性別など生まれによる差別は禁止されます。人間も自然の一部ですが,自らを社会的生に負う限りにおいて文化(culture)を有します。伝統(文化)はその社会の内外で意味を異にしますが,物理(自然)法則はそうではありません(林檎の落下は誰にとっても同様)。人間であれば生物学的に(自然において)同一ですが,帰属する社会に応じて文化は異なります(文化の多様性は文化相対主義を帰結するとも限りませんが…)。自然と文化(社会)の二元論は,近代を,学知の近代的配分(自然科学と社会科学)を規定しています。 井手英策 [ほか] 著『大人のための社会科 : 未来を語るために』有斐閣 2017年本書が各章で取り上げているテーマは,GDP,勤労,多数決,公正,ニーズなど,大学生であればおおよその意味は想像できるようなものばかりであると思います。しかし,読み進めるとそれぞれのキーワードはそう簡単な概念ではないことがわかってくるはずです。それらは,社会という枠組みの中でどのような人々が関わっているか,彼らの置かれている立場,彼らの考え方や価値観,そして彼らを取り巻く時代の流れなどによって,その意味や捉えられ方はさまざまに変化しうることがわかるでしょう。著者たちが提示しているのは,固定した一つの概念の説明というよりも解釈の一例であって,「では,皆さんならどう考えますか?」という問いかけ,つまり,「議論のタネ」が撒かれているのです。読者としての学生の皆さんは,ぜひこの議論のタネを自分たちの議論のネタとして利用し,育ててみてください。本書から他者の考えを学び,身近な人たちと語り合う機会につなげることは,自分自身の思考を深めるきっかけとなるはずです。 |