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推薦図書紹介
2020 Vol.6
木庭顕著『誰のために法は生まれた』朝日出版社 2018年 本書は、筆者の木庭氏(東京大学名誉教授〔ローマ法専攻〕)が、中高生と一緒に映画、ギリシャやローマの古典文学などのエピソードを読み解きながら、法は誰のために生まれたのかという問題を考えていく書である。 筆者は「グルになっている集団を徹底的に解体して、追い詰められた一人の人に徹底的に肩入れをするのが、本来・・・の法」(63頁)であると言う。これを「占有」概念を手がかりに「個人」対「集団」の場面において考える。それにとどまらず筆者は、日本国憲法9条2項の考えはローマの占有概念にもあること、時代を超え社会契約論者のホッブズの思想がこれらをつなげていることをも指摘する。憲法9条2項が特別ではなくある意味普遍性をもつ法である旨の解説は新鮮であると共に法学研究の醍醐味を見た想いである。 また死亡した自衛隊員の靖国神社合祀訴訟に関連して日本の場合「隊友会なんていう、よくわからないものを作って、民間の雰囲気や気分を盛り上げて、あたかも自発的にやっているように粉飾する・・・どこに線があるかわからない」「どこまでが国家でどこまでが国家ではないかわからな」(368頁)い、との指摘は今回のコロナ禍にあっては示唆的である。「自粛」が「自分で自分の行いをつつしむこと」(広辞苑)であるならば、それを公権力が個人に対して「要請」すること、「自粛警察」なるものが発生すること、これらの意味を考えてみるのも悪くないだろう。 (大山 盛義教授/4F東開架) ニック・クドリー著,山腰修三監訳『メディア・社会・世界 : デジタルメディアと社会理論』慶應義塾大学出版会 2018年 知りたい情報をGoogleで検索し、身の回りの出来事をInstagramやTwitterで発信し、YouTubeを視聴して余暇を過ごす……私たちは日常生活の中で様々なデジタルメディアを利用しています。 私たちが生きる現代社会は、こうしたメディアを通じて、どのように「秩序化」されているのでしょうか。メディアが私たちの日常に与える影響は、どのようなものなのでしょうか。これらの問いは、新聞学科の学生に限らず、人間社会の諸現象を解明しようとする「社会科学」の総合学部を謳う法学部の学生に共通する、極めて関心の高い疑問だと思います。 本書は、「メディアが社会と世界との間に構築する諸関係とは何か」、「これらの諸関係を捉えるために必要な社会理論とは何か」を論じた研究書であり、今日のデジタルメディア社会を考察するうえで重要な知見を与えてくれるものです。法学部図書館では、本書を書籍として所蔵しているほかに、電子書籍版の利用も可能になっています。コロナ禍で頻繁には来館しづらい状況が続いていますので、ぜひ電子書籍版も利用してみてください。 (石川 徳幸准教授/3F東開架・電子書籍(インターネット版)) 木田元著『反哲学入門』新潮社 2007年 哲学というと、難しい用語や概念を駆使して、何やら、ややこしい理屈を並べ立てる風変りな学問で、その点にとっつきにくさを感じてしまう、そんな声もよく耳にしますし、それはけっしておかしなことではないのでしょう。もっとも、その本当の理由を探ってみますと、それは、言葉や文体の難しさというよりは、むしろ、その発想の動機がうまく呑みこめないことによるのかもしれません。 本書は、哲学者たちが生きてきた人生や境遇、文化や時代、歴史的な背景にも光を当て、西洋と東洋、古代や中世や近代と、地域や時代を縦横に行き来しながら、哲学のなりたちとその発想の動機についてじつに平明に説き明かしてくれます。 西洋の思想の歴史、とりわけその中核をなす哲学の歴史が歩んできた軌道や道筋について一本の太く大きなレールを指し示し、その全体像と骨格が見事に浮き彫りにされる、その様子を目撃することができるはずです。現代哲学の動向をも俯瞰するその鮮やかな切り口、語り口によって、哲学という学問にともなう難しさやとっつきにくさの秘密に触れさせてくれる、そんなミステリー的な要素も味わえる一冊です。 哲学や思想も含めて、そもそも学問を学ぶことについて不安や迷いなどを感じるようなときには、本書を、その指針や動機を模索するための一つの手かがりにしてみてはいかがでしょうか。 (岡山 敬二准教授/3F東開架) このページのトップへ戻る
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