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推薦図書紹介
2019 Vol.4
Hiroyuki Kansaku(神作裕之)編『Japanese Financial Instruments and Exchange Act』財経詳報社 2018年 国際的に資本の流動化が広がっており、多くの外国人投資家が日本会社の株式取得している。そのため、日本の株式に関する規制への関心が高まっている。 本書は、日本の証券市場法制の中核をなす金融商品取引法を、体系的に英語で紹介するものである。株式も金融商品取引の対象の1つである。本書は、東京大学法学部の寄付講座「Program on Global Securities Market Law」の研究成果であり、同寄付講座の目的の1つは、証券市場に関する日本の法制度を他国に紹介することである。本書を読むことで日本の証券市場の仕組みを英語で理解することができる。 もちろん、日本の制度の理解も必要であるから、それについては日本語の解説書(やさしい解説書として、川口恭弘『金融商品取引法への誘い』(有斐閣、2018年)338.16||Ka 92a(法図5F東開架)等)も読むことで内容と英語の両方を理解することが求められる。 国際化が進展する現代において、英語能力の必要性が高まっていることはいうまでもない。英語能力については、日本の制度を外国に紹介することもその能力の1つとして求められているから、本書を日本の証券市場の仕組みを英語で理解するとともに外国にも紹介する能力を培って欲しい。その意味で一読を勧めたい一冊である。 (大久保拓也教授/6F西開架) ジョン・アーリ著『オフショア化する世界 : 人・モノ・金が逃げ込む「闇の空間」とは何か?』明石書店 2018年オフショア化(オフショアリング)とは一般に、国内の製造工程の一部やサービス業務の海外移転をいう。金融分野でのオフショア市場とは、国内市場(オンショア市場)との対比で、国内市場から切り離され、海外から資金調達をして海外に融資する外-外取引がおこなわれる市場を指す。国内市場での取引は当該国の規制下にあるが、オフショア市場での取引に課される規制はより緩やかなものになる。本書では規制のない場所、あるいは規制の少ない場所への逃避をオフショアリングと表現する。タックス・ヘイブンと呼ばれる国への資金移動は、オフショアリングの一例である。 ミルトン・フリードマンが先鞭をつけた新自由主義は、1929年の大恐慌と1930年代の経済不況によって「国家」の側に傾いたシーソーを、「市場」の側に傾けることを主張してきた。新自由主義では国家による再配分の役割を最小化することを求め、再配分を可能にする租税の必要性に疑問を抱く。 オフショアリングは、「国家」が存在しない場所へ移動するという方法で、新自由主義が求める経済を作り出すツールであり、グローバル化がそれを可能にしているというのが本書の主張である。経済格差に関心がある人に読んでもらいたい1冊である。 (横溝えりか教授/5F東開架) 信夫隆司著『米軍基地権と日米密約 : 奄美・小笠原・沖縄返還を通して』岩波書店 2019年 「日本に米軍基地は存在しない」。 冒頭のこの逆説的な言説は、本書が取り上げる問題の本質を端的に示している。日米安全保障条約をめぐる交渉においては、正式な合意とは別に多くの密約が存在していたことは周知のとおりである。条約上は日本が存在を認めていない基地について、アメリカは基地権を主張しつつ、日本における軍事的展開の自由だけでなく米軍関係者の権利・利益の優越的な保護を要求し、双方の主張は対立したものの、結果的に日本側はこれを受け入れた。米軍関係者に対する刑事裁判権の事実上の抛棄もそうした優遇のひとつである。 ジラード事件や伊江島事件以後も米軍関係者による犯罪は絶えず、日本側の事件処理に対する国民の不信感は根強く残っている。これを払拭するためには交渉の過程でどのような合意があり、またどのような方法で決着したか等を、事実に基づいて検証することが重要であり、かつ不可欠である。新たに発見した文書を含む膨大な資料の中から交渉に関わる事実を明らかにしようとする本書は、今なお基地をめぐる議論が続いている状況にあって指標とすべき研究論文であり啓蒙書である。 (岡西賢治准教授/4F東開架) ナイジェル・シャドボルト, ロジャー・ハンプソン著 ; 神月謙一訳『デジタル・エイプ : テクノロジーは人間をこう変えていく』クロスメディア・パブリッシング 2018年本書のタイトルである「デジタル・エイプ(The Digital Ape)」とは「デジタルなサル」である現代人を指す。これは、1967年に発表されたデズモンド・モリス(Desmond Morris)による名著『裸のサル(The Naked Ape)』を意識して書かれており、体毛を失って裸になった人類(裸のサル)が道具を使うことで他の類人猿から進化してきたように、デジタルテクノロジーによって新たな進化を遂げている人類が社会とともにどう変わっていくのかについて論じている。 道具を作り使いこなすことで人類は進化してきたが、それは、道具や技術によって我々自身が変化してきたことに他ならない。私たちが新たな道具をつくったのではなく、新たな道具が私たちをつくり出したのだという筆者の指摘通り、AIやビッグデータ、ソーシャルマシンなどによって我々は変わっていく。そして、テクノロジーによる進化で、未来もまた変わるだろう。それがすばらしい未来か、予想もつかない事態を招いてしまう未来か、それを選ぶのは我々自身の精神であることを本書は気付かせてくれる。デジタル・ネイティブである法学部の学生にこそ勧めたい1冊である。 (木川裕准教授/3F東開架) このページのトップへ戻る
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