|
TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介2019 Vol.3ジャック・デリダ著,高桑和巳訳『死刑〔I〕』白水社 2017年本書は1999年~2000年にパリの社会科学高等研究院でジャック・デリダが行ったセミネールの講義録である。フランス現代哲学の巨匠の一人であるデリダの哲学は難解をもって知られるが、「脱構築」という彼の用語を聞いたことのある方も多いのではないだろうか。 内田樹編,池田清彦[ほか]著『人口減少社会の未来学』文藝春秋 2018年少子高齢化が喫緊の課題であると言われて久しい。この間、政府や自治体がこの問題に対する施策を検討してきたにもかかわらず、問題自体が根本的に解決されることはなく現在に至っている。人口減少による労働力不足や社会保障制度の持続可能性に加え、近年ではAIによる雇用の喪失といった問題が複合的に絡み合い、いたずらに未来に対する不安が助長されている感もある。こうした中、本書は「前代未聞の事態」であるこの問題について、多角的に検討を加える者である。生物学者、コラムニスト、劇作家といった様々な肩書きを持つ論者から、人口減少社会における社会の変容とそれに対する対策が示される。全11の論考はいずれもコンパクトでありながら密度の濃いものであるが、本書において具体的な結論が明確に示されているわけではなく、問題の捉え方自体も各論者によって異なっているため、すっきりとしない読後感が残るかもしれない。もっとも、本書の狙いは、過度に悲観的あるいは楽観的になり問題から目を背けるのではなく、活発な想像力と推理力を用いて考えることの大切さを伝える点にある。これからの時代を生きる学生の皆さんに是非読んでもらいたい1冊である。 文部省編『あたらしい憲法のはなし』復刻版 東京出版 1995年『あたらしい憲法のはなし』は別にもう一冊ある。宮沢俊義『あたらしい憲法のはなし』(復刻版、三陸書房・2016年)だ。文部省の『はなし』は、昭和22(1947)年8月に新制中学1年の社会科教科書として刊行された。宮沢の『はなし』は、それより早く同年3月に朝日新聞社から刊行されている。いずれも前年11月3日に公布された日本国憲法の内容を平易に解説したもの。文部省編『はなし』は、現行憲法成立当時の公定解釈ともいえ、憲法の原意を知ることができる。宮沢俊義の『はなし』も同様だが、戦後憲法学の基礎を築いたとされる著者の新旧憲法の移行期における微妙な態度の揺れが窺え、興味深い。いま、あらためて当時の憲法解釈に示された理想を再確認してみたい。はたしてその理想がそもそも達成可能なものと考えられていたのか。GHQの草案作成にまったく触れていないのはなぜか、等々。今日に続く憲法解釈の主流の源を訪ね、その流れが波静かな四海に至るものか展望してみてはどうだろうか。 高安健将著『首相の権力 : 日英比較からみる政権党とのダイナミズム』創文社 2009年本書は、日本と英国における首相権力を比較分析したものである。日本における首相は「脆弱」で、英国では「強力」であると評価されてきたが、そのような理解は正しいのか、なぜ両国の首相に違いが生じるのかというのが本書の問いである。この問いに対し、著者は、上記のような「通説」の一部を受け入れつつも、英国の首相が常に強力な権力を行使できるわけではないこと、一方で日本の首相も強い権力を行使することが可能であったことを実証している。 |