• 2020.05
  • 『 Democracy and the Cartelization of Political Parties 』
  • 『過労自殺』
  • 『法学の誕生 : 近代日本にとって「法」とは何であったか』
  • 『絶望する勇気 : グローバル資本主義・原理主義・ポピュリズム』
  • 2020.03
  • 『現代ドイツ基本権(第2版)』
  • 『流言のメディア史』
  • 『コーヒー・ハウス : 18世紀ロンドン、都市の生活史』
  • 『日本人と裁判 : 歴史の中の庶民と司法』
  • 2020.01
  • 『Japanese Financial Instruments and Exchange Act』
  • 『オフショア化する世界 : 人・モノ・金が逃げ込む「闇の空間」とは何か?』
  • 『米軍基地権と日米密約 : 奄美・小笠原・沖縄返還を通して』
  • 『デジタル・エイプ : テクノロジーは人間をこう変えていく』
  • 2019.07
  • 『死刑〔I〕』
  • 『人口減少社会の未来学』
  • 『あたらしい憲法のはなし』
  • 『首相の権力 : 日英比較からみる政権党とのダイナミズム』
  • 2019.04
  • 『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち』
  • 『戊辰戦争の新視点』
  • 『日本語の作文技術』
  • 『こうして知財は炎上する:ビジネスに役立つ13の基礎知識』
  • 2019.01
  • 『Robert A. Dahl: An unended quest』
  • 『近代の政治思想:その現実的・理論的諸前提』
  • 『新しい労働社会』
  • 『村山龍平:新聞紙は以て江湖の輿論を載するものなり』
  • 2018.12
  • 『事例問題から考える憲法』
  • 『憎しみに抗って:不純なものへの賛歌』
  • 『貧困と闘う知 : 教育、医療、金融、ガバナンス』
  • 『中野重治詩集 : 中野重治自選』
  • 2018.10
  • 『貨幣と商業(Money and Trade considered with a proposal for supplying the nation with money)』
  • 『憲法改正限界論のイデオロギー性』
  • 『一問一答 民法(債権関係)改正』
  • 『分解するイギリス:民主主義モデルの漂流』
  • 2018.07
  • 『ライシテから読む現代フランス:政治と宗教のいま』
  • 『餓死(うえじに)した英霊たち』
  • 『情報法のリーガル・マインド』
  • 『正しい本の読み方』
  • 2018.04
  • 『立法過程』
  • 『実践国際法(第2版)』
  • 『刑の一部執行猶予:犯罪者の改善更生と再犯防止』
  • 『ファッションロー』

TOP推薦図書紹介

推薦図書紹介

2018 Vol.5

松本和彦著『事例問題から考える憲法』有斐閣2018年

本書は「事例問題から考える」という書名からもわかるように,具体的な事案の解明を通じて憲法問題を考える演習書である。憲法に関する演習書は数多く存在するが,本書はそのなかでも議論のわかりやすさという点で群を抜いている。
演習書というと,どうしても事案の「解決」に目が行きがちであり,そのため「裁判所(裁判官)目線」で事案を眺めるスタイルが中心となる。もちろん,それはそれで勉強になるのだが,読み手からすると,学説・判例の紹介に始まり,何らかの「妥当(そう)な結論」が導き出されていくのを,戦いのリングの外から眺めているような気分になりやすい。
しかし,本書は,事案の分析から解決へといたるプロセスにおいて,徹底的に「当事者目線」に立つ。すなわち,実際に対立する当事者から見た場合に,その問題が憲法上のどのような利益や解釈と関係するのかが中心的なテーマなのである。このため読者は,本書において戦いのリングに放り込まれ,憲法論の応酬を当事者と同じ目線で疑似体験する。
全30問の事例は古典的なものから最先端の議論を誘発するものまで多様である。憲法を一通り学んだ学生諸君はもとより,いままさに学んでいる最中の学生諸君にも最適な演習書である。
(玉蟲 由樹教授/新着図書コーナー)

カロリン・エムケ著 浅井晶子訳『憎しみに抗って:不純なものへの賛歌』みすず書房2018年

本書が2016年にドイツ図書流通連盟平和賞を受賞した際,「政治的,宗教的,文化的な対立が頻繁に会話を不可能にしてしまう時代における社会行動の模範である。」と評された。移民問題で揺れるドイツでベストセラーになった本である。
ジャーナリストである著者カロリン・エムケがドイツやアメリカで起きた差別意識を源とする事件の分析を通じて,その背景にある「包括と排除」のメカニズムを解き明かしていく語り口は明晰である。本書の優れた点はそれだけにとどまらず,現代の世界中で抱える民族・宗教・ジェンダー・移民・差別問題の解決への足がかりとして,「憎しみと蔑視に対する批判と抵抗は」「憎むものを悪魔的な存在に仕立て上げて批判することではなく」「憎しみと蔑視の構造と条件へと向け」,そこから具体的な方策を提案している点である。それは政治・社会制度や法律との関わり方にまで及ぶ。
自分たちの「基準」にあてはまらない存在への嫌悪,その存在への攻撃を容認しても良いという暗黙の了解,このような憎しみのメカニズムに飲み込まれない為に本書から学ぶことは多い。
(真道 杉准教授/4F東開架)

エステル・デュフロ著 峯陽一,コザ・アリーン訳『貧困と闘う知 : 教育、医療、金融、ガバナンス』みすず書房2017年

本書は,低所得国が抱える教育・健康・金融・ガバナンス問題についての研究成果を,読みやすい形にまとめ上げた一冊となっている。本のタイトルを見ただけでは,この本が経済学者によって書かれたものであると推察するのは難しいかもしれない。
国家が市場に介入するのは,財の配分を行うにあたり,市場における価格調整機能を用いた配分では,公益の観点からの配分が難しい時となる。本書の第4章「ガバナンスと汚職」では,汚職を「公務員(または議員)が個人的な特権を得るために規則に違反する状況」と定義する。そして「腐敗した公務員たち」が行っているのは「法律に違反することで,国家が除去しようと試みた市場のロジックを再導入し,しばしば財の分配の方法を変化させようとする」ことであるとしている。ここで言う市場のロジックとは価格調整機能を用いた配分を指し,汚職では,賄賂,ゆすりとられる金や,みかじめ料が,財の配分において価格の役割を果たすものとなる。
社会に存在する問題には,政治の分野,経済の分野,そして法の分野として,切り離して考えることが難しい問題も多い。本書は,政治・経済・法を学んでいる人,ここ日本大学法学部で学んでいる人に,読むことを薦める一冊である。  
(横溝 えりか准教授/5F東開架)

中野重治著『中野重治詩集 : 中野重治自選』岩波書店1956年

二〇世紀の詩人,中野重治は教養主義を批判した。それは「大正」期以降,教養主義とは教養を持たない人々を二流以下の存在に位置づけ,「文化」的な「市民」にのみ権利を認める発想とみなされたのだ。中野らプロレタリア文学の担い手たちは,そのような卓越化への「否」を述べたのである。
今日もまた,企業や国家の立場から教養主義は批判されている。しかしその批判の意義は換骨奪胎され,完全に真逆のものとなってしまった。教養を持つ意味は,資本主義社会の中で無害な労働者を仕立て上げ,またリソースを最適化するために無化されるのである。
だが現代のこの事態は,中野の著作を読めば極めて偏ったものであることがわかる。中野において教養主義批判が,労働者の力を汲むための「別種の知」を求めることと固く結びついていた点は,決して忘れてはならない。そして私は学生たちにも,これからの自分たちにとって真に必要な「別種の知」とは何なのかを,「教養」や大学,図書館,そして自らの周囲から盗み取り,作り出して欲しいと願っている。
最後に中野の詩,「歌」の一節を掲げたい。
「たたかれることによって弾ねかえる歌を/恥辱の底から勇気を汲みくる歌を/それらの歌々を/咽喉をふくらまして厳しい韻律に歌いあげよ/それらの歌々を/行く行く人びとの胸郭にたたきこめ」
(宮澤 隆義専任講師/3F東開架)

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