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推薦図書紹介
2024 Vol.2 ※赤字をクリックでOPACにつながります
Masatomi Fujimoto(藤本正富), John Vint, Taro Hisamatsu(久松太郎) 『James Mill, John Stuart Mill, and the History of Economic Thought』 Routledge 2023本書は,イギリスの哲学者,経済学者であったミル親子の研究書です。父ミル(James Mill. 1773-1836)の生誕250年,子ミル(John Stuart Mill. 1806-1873)の歿後150年を記念して国内外の研究者によって2023年に公刊されました。子ミルに関して,彼の政治理論,政治制度への思索の結晶は『代議制統治論』(1861年)です。法学部はその初版原典とともに『代議制統治論』自筆草稿を所蔵しています。『代議制統治論』は公刊後すぐに,フランス語(1862年),ドイツ語(1862年),ロシア語(1863年),スペイン語(1865年),ハンガリー語(1867年)に翻訳されています。日本語訳は永峰秀樹が明治8(1875)年に『代議政体』として発表されています。このことからも『代議制統治論』は当時の世界の重要な関心事であったことが分かります。 筆者のひとり小沢佳史氏は,イギリスの軍事支出に注目して子ミルの従属国に関する見解を再構築しようとします。そこでは本学の自筆草稿(下書き)と原典本文とを比較するという,おそらく世界で初めての手法が採用され,思想の変遷が明らかにされていきます。本学が所蔵している資料が研究者によって利用されることは非常に光栄なことです。学生の皆さんもぜひ一度本書を手にしてください。 (川又祐教授/6F西開架 331.45||F 62) 吉見俊哉著 『空爆論 : メディアと戦争』 岩波書店 2022年本書は,第1次世界大戦以降に現れた「空爆」に焦点を当てています。それは上空から人々を俯瞰し,支配し,殺害する「眼差し」であると著者は強調します。近代以前,戦争の主役は戦場で戦う兵士でしたが,近代戦争ではメディア技術がその役割を担うようになりました。高高度から正確に爆弾を投下することによって実現する空爆は,まさに「眼差しのテクノロジー」による攻撃なのです。 例えば,第2次世界大戦中,アメリカは戦略爆撃機B29で日本を空爆しました。高度1万メートルからの爆撃に対し,日本の戦闘機による迎撃は実質的に不可能でした。1945年3月の東京空襲では,わずか2時間で約10万人が死亡し,約100万人が罹災しました。この結果は,テクノロジーの差が生む「非対称性」を象徴しています。それは敵国に壊滅的な被害を与える手段であると同時に,自国の兵士を安全に戦わせる手段でもあるのです。この非対称性を,私たちはどのように評価すべきなのでしょうか。 現在でも,ウクライナやパレスチナではドローンなどの新たな「眼差しのテクノロジー」が多くの死をもたらしています。本書は,テクノロジーの発達が引き起こす非対称的な戦争の道義性について考える機会を提供しています。 (中正樹教授/5F東開架 391.207||Y 91) ジリアン・トーマス著;中窪裕也訳 『雇用差別と闘うアメリカの女性たち』 日本評論社 2020年アメリカでは1964年に成立した公民権法のなかで,雇用における「性を理由とする」差別が,初めて禁止されました。この公民権法第7編での雇用差別禁止規定は,その後,女性たちが職場における正義を求めて訴訟を提起していく,拠りどころとなっていきます。当初,こうした訴訟は,裁判所で好意的な扱いを受けるものではありませんでしたが,1件,そしてまた1件と,少しずつ正義を勝ちとる有利な判決がなされ,連邦最高裁での判断につながっていきました。本書は,連邦最高裁に到達し,かつ,女性差別を正すうえで試金石となるような判断を勝ち得た10の事件について,その原告たちに焦点をあてた物語です。 著者は弁護士であり,本書冒頭に,「勝訴できるかどうかの見込みがあれほど不確実な中で,しかも,社会のカルチャーが働く女性に対してあれほど懐疑的だった時代に…(性差別を闘った)彼女たちのことを知ってみたい,そして彼女たちの話を伝えたい,と思った」と記しています。働く場での男女比率差が大きく,女性差別もセクシャル・ハラスメントも流れる空気のように当然だった時代が,かつてありました。そう遠い過去ではありません。おかしいと声を上げた女性たちがいることを,その時のどうしようもない想いを,今,現代に生きる大学生の皆さんに,一人でも多く,知ってもらいたいと思います。 (藤井直子准教授/5F東開架 366.38||Th 5) 最上敏樹著 『国際法以後』 みすず書房 2024年近年,国際社会の秩序を大きく揺るがす様々な紛争が繰り返されています。ロシアによるウクライナ侵攻,イスラエル・ガザ戦争など,ニュースやSNS等で目にする機会も多いでしょう。このような不安定化した国際情勢において,国際法は明白に破られ,その存在意義が問われる状況ともなっています。 本書は,国際法の実効性の脆弱さ,そして無力さに,正面から向き合う書です。最上教授は,国際法を「奇妙な法」と呼び,国際法学の内部でその批判的検討について整理しています。 全体を通して浮かび上がるのは,既存の国際法の「その後」に来るべきものは果たしていかなるものなのか,という問いかけです。しばしば実効性がないと指摘される国際法の構造的問題に向き合い,その再構築について思索を進めています。著者の言葉を借りれば,この本の試みは,「これまでの国際法とは異なる国際法の展望を開く」ためのもので,実際に今後の国際法のありかたに大きな影響を与える一冊でしょう。 この本は,研究者のみならず一般の方向けにも書かれています。難解な部分もあるでしょうが,国際法や現下の国際情勢に関心のある学生,教職員にはぜひ手に取ってもらいたい一冊です。 (本吉祐樹准教授/1F新着図書コーナー 329||Mo 16a) ジャン=ジャック・ルソー著 ; ブリュノ・ベルナルディ, ガブリエッラ・シルヴェストリーニ編 ; 永見文雄, 三浦信孝訳 『ルソーの戦争/平和論:『戦争法の諸原理』と『永久平和論抜粋・批判』 勁草書房 2020年「個人間にかつて真の戦争は一度もなかったし,ありうるはずもない」(『戦争法の諸原理』)。もちろんこれは,国家間の戦争や,戦争にカテゴライズされない現実の紛争が存在しないということではありません。 ルソーのテクストの批評校訂は,当時の錚々たるルソー研究者が携わったプレイヤード版(全5巻,1959-1995)の刊行によって完成されたかのように見えました。しかしながら,今世紀になってブリュノ・ベルナルディを中心に行われた新たな校訂作業がこの基幹的研究領域に刷新をもたらしました。本書の原典はその共同作業の成果の一つです。特筆すべきは,ルソーの戦争論が「発見」され,「復元」されたことです。この作品を構成する部分は,単なる下書きか断片とされていましたが,そうではありませんでした。ルソーは国家間の対外関係の問題を解明すべく取り組んでいました。実際,ルソーの当初の企て(『国家学概論institutions politiques』)には国家間の対外関係も含まれていました。しかしその成果である『社会契約論』は一国における「国制法の真の諸原理」を主題とするにとどまりました。この復元によって開かれた新たな観点からベルナルディの研究チームが行う研究も,本書のもう一つの特筆すべき点となっています。 (吉澤保准教授/4F西開架 329.6||R 76) このページのトップへ戻る
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