研究 × 実社会

Research 05

官民協働で生まれる「新しい公共」。
その舵取りに必要な力とは?

公共政策学科

福島 康仁教授

格差の是正や災害対策など,私たちの幸せな暮らしに深く関わる公共政策。社会問題の増加に対応するよう政策も変化して,かつての行政主体から,住民や民間企業も巻き込んでの協働が求められています。公共政策を効果的に行うために必要なものは何でしょう。公共政策学科の福島康仁教授にお話を聞きました。

幸福のための公共政策

——そもそも「公共政策学」とは何でしょう?なぜ法学部にあるのでしょうか?

福島康仁教授(以下福島):公共政策は,世の中の社会問題を解決して,私たちの生活を便利にしたり幸せにしたりするものです。その政策をどうしたら合理的・効果的に実施できるかを考えるのが,公共政策学です。

公共政策学科が法学部にあることを意外に思われるかもしれませんが,行政が政策を実行する際には法律や条例などの裏付けが必須です。公共政策を策定する公務員にとって法律を学ぶことは,必須となる知識となるため,日本大学では公共政策学科を法学部に置いています。

——研究対象は国や地方自治体ですか?

福島:公共政策は国や地方自治体が行うものですが,現在では住民や企業,NPOなどと協働して効率的に行うようになっています。以前は公の施設の管理運営は行政の外郭団体にしか委託できなかったんですが,2003年に地方自治法が改正され「指定管理者制度」ができました。今ではNPOや民間企業などが公立図書館や公園の運営を担うことも増えています。

——かつては行政主体だった部分が変わってきたということですよね。なぜでしょう?

福島:地域を統治する「ガバメント」という考え方から, アクター(関係者)との協働で問題を解決する「ガバナンス」という考え方に変わってきたということがあります。少子高齢化で自治体の財源は厳しく,人口が減ったことでのリソース不足もあり,官民連携で政策課題の解決に取り組まないと,地域が生き残れなくなってしまうんです。

企業が公共政策で協働するメリットは

——解決すべき社会問題にも変化がありますか?

福島:以前,介護は家庭の問題とされていましたが,今は政策課題として捉えられるようになりました。格差の問題も社会として解決すべき政策課題となっています。その解決のために様々な政策ができますが,今度はそれをいかに合理的なプロセスで効果的に行えるかを考える必要があります。

例えば環境問題の解決には,環境教育を行うことで徐々にゴミの量が減るとか,一般ゴミ回収を有料化することで資源ゴミの分別化が進むとか,効果的な仕組みを作ると人々の行動変容が起こります。ゴミが減ると,自治体の処理費用が数億減ることもあるんです。

——周知や仕組みを作ることで住民の協力が得られ,住民側にもメリットがありますね。そういった協働に,企業や団体はどのように参加しますか?

福島:NPO,企業や団体は資金や企画,人手を提供して参加します。社会貢献することで,NPO,企業や団体は地域や社会での信頼が増します。

NPOが単体で社会課題についてのイベントを開催しようとしても,なかなか人は集まりません。ところが行政の協賛を得ることで住民の信用を得て,協力者が集まる。行政と組むことによってNPOが目指す社会課題の解決に近づけるということがあります。

——様々なアクターが参加することにはメリットが大きいですが,意見をまとめる難しさもありそうです。行政の役割はどんなものでしょう?

福島:行政はそれぞれのアクターをつなげる役割を担います。ある団体が1〜3歳の子どもの支援,別の団体が小学生の子どもの支援を行っていたとします。バラバラに動いている各団体をつなげる仕組みを行政が作ると,利用者はシームレスに支援を受けることができます。

場をうまく作ると,行政が直接関わらなくても民民協働を産み出すことができる。そういう枠組みを作ることも行政の政策の一つです。

公務員でも民間でも,コミュニケーション力や企画力が必要

——枠組み作りなどを担当する公務員には,外部団体それぞれと協働するコミュニケーション力が必要そうですね。今,公務員に求められるスキルも変わってきているのでしょうか?

福島:アクター間の調整をするコミュニケーション力は非常に求められていますね。そうでないと効果的・効率的に仕組みが動かないので。以前とは違い,試験でも面接が重視されています。

日本は高度経済成長期と違い,税収は減る一方で政策課題は増え続けていますが,住民からはより一層の行政サービスを求められています。だから今の公務員にはコミュニケーション力に加え,知恵や企画力も必要です。

——その能力は民間企業でも生かされるものですよね。

福島:もちろんです。民間企業でも企画力やコミュニケーション力は重要なものです。そして民間企業の仕事でも公共的なサービスを担うことがありますし,行政との協働も今後増えてきます。

公共政策学の知識が生かされる場面はとても多く,一人ひとりの「行動する勇気」が明日の幸せな社会を作ります。社会貢献によって,幸せな社会を作る先導者が増えてほしいと思います。

Profile

公共政策学科

福島 康仁教授

Fukushima Yasuhito

日本大学大学院法学研究科修了後,財団法人行政管理研究センター調査研究部研究員,四日市大学専任講師,日本大学法学部専任講師,助教授,准教授を経て,2010年より同教授。専門分野は都市政策・地方自治論。研究分野は協働のまちづくり,行政苦情救済,政策過程論。