研究 × 実社会

Research 04

変化と課題が多い現代。
経営学×法学の学びが
求められる理由

経営法学科

鈴木 貴大准教授

企業は法に基づいて経営を行っていますが,法制度が追いついていない現状もあり,これまでのように法を遵守しているだけでは企業に求められるビジョンを実現できません。AIやロボット技術が発展し,環境負荷への目線も厳しくなり,個人の多様性が尊重され,働き方も見直される今,変化に対応できる学びとはどんなものでしょうか。経営法学科の鈴木貴大准教授に,これからの課題と,経営学・法学を学ぶ魅力を伺います。

法知識と経営を学ぶ意味

——経営法学科は法学部の中にありながら,「経営」の名を掲げています。法知識と経営はどのような関係がありますか?

鈴木貴大准教授(以下鈴木):どんな組織も法律の枠組みの中で経営を行っていて,金融証券取引法や会社法など,経営に関する法律は多くあります。社会の基盤である法律を全般的に学びながらも,一方で経営学を学び,その二つの柱の中で自身の学びたいことを深めていくのが,本学科の特徴です。

——法の改正が時代に追いついていないことがありますよね。法律的には問題ないけれども社会正義的には望ましくないといった場合,経営側はどうやって判断するのでしょうか?

鈴木:そういったテーマを扱うのが,私の専門であるビジネスエシックス(経営倫理)です。法律とは何か問題が起きて初めて作られるもので,今日問題が起きたから明日法律作りましょうとはいきません。法律で禁止されていないから問題ない,もしくは法制度が整っていない途上国に進出すれば問題ないという考え方では,結果的に社会からの批判を浴びてしまうことになります。

昨今ではSNSが普及していますので,企業が意図的に行った結果として批判されるのみならず,意図的でないことでも批判の対象となってしまいます。こうした社会からの批判を未然に防ぎ,法律の枠組みを超えた部分の問題にどのように企業が対応していくかを扱うのが,経営倫理と呼ばれる分野になります。

第4次産業革命で,新しい仕事が生まれる?

——特に注目している課題にはどんなものがありますか?

鈴木:AIやロボットの普及により,現代は第4次産業革命の時代といわれています。私たちの生活も産業構造そのものも変わり自動化が進んでいく中,多数の解決すべき課題があります。

例えば完全自動運転で走行していた自動車が事故を起こしたとき、その事故の責任が同乗していた運転手にあるのか,その自動車を製造したメーカーにあるのか,現在の法律では定められていません。このような課題に企業がどう向き合い,社会がどう判断をするのかは現在注目している分野になります。

——変化の大きい時代で,個人も新たな局面に対応する必要がありそうですね。

鈴木:人間の仕事がロボットに奪われる,などといわれることもありますが,就く人が減る仕事があったとしても,ロボットが全て人間の仕事を代替するのはまだだいぶ先ではないかと考えています。

これまでの産業革命でも常に新しい仕事が生まれてきましたし,今の小学生の半数は,現在存在していない仕事に就くといわれています。そういった環境の変化にどれだけ柔軟に対応できるかが大事になってくると思います。

——技術も法律も変わって新しい仕事が生まれるなら,一つの方向性に固執せず,柔軟さを持ち合わせることも大切かもしれませんね。

鈴木:そうですね。大学は自分がやりたいことを見つけていく4年間でもあります。学んだことをどうやって生かしていこうかなという広い視点を持って大学生活を過ごせると,有意義なものになると思います。

マネジメントを学び,想像力を手に入れる

——経営者や起業を目指していなくても,経営学は仕事や実生活に役立つでしょうか?

鈴木:経営学では組織がどのような仕組みで成り立ち運営されているのかを知るだけでなく,人と人の関わり合いを円滑にするマネジメントやリーダーシップも学ぶので,経営,起業に関わらず,チームで働くときにも個人で働くときにも役立ちます。

将来的にどんな技術革新があり,どんな職業に就こうとも,仕事は全くの一人では成り立ちません。グローバル化も進み多様性を尊重する時代となっていますので,企業は一人ひとりに寄り添う必要が出てきています。経営学にしても法学にしても,生きていく上で大事な知識となります。

——日本大学法学部で経営法学を学ぶ魅力を教えてください。

鈴木:朝起きて学校やバイト先に向かうだけでも,私たちは数えきれない商品とそれを作った企業に囲まれています。着ている服,乗っている電車,コンビニの商品,それら全てで生活が成り立っていることに目を向けてみてください。

経営法学科では,法律だけでなく社会科学全般を学べます。商品一つの背景や売れている理由,企画した人や企業の文化などについて,想像力を手に入れることができます。

それは仕事に直接関わるものでなくても,人生を豊かにしてくれるものだと思っています。

Profile

経営法学科

鈴木 貴大准教授

Suzuki Takahiro

2019年明治大学大学院商学研究科博士課程修了。同年日本大学法学部助教,20年専任講師,22年から准教授。23年から現在まで,日本経営倫理学会理事を務める。研究分野はコーポレート・ガバナンス,企業の社会的責任(CSR),経営倫理。