研究 × 実社会

Research 01

「考える」楽しさ。
多様性の中での「家族法」

法律学科

大杉 麻美教授

多様性が尊重されるようになり,家族のあり方もかわりつつある現代。「家族法」はアップデートしているのでしょうか?法律はただ覚えるようなものではなく,その作られた目的や条文の内容を理解することによってより良い結果に導くことができるもの。家族法がどう変わり,どのような課題を持っているかを法律学科の大杉麻美教授に伺いました。

法を学ぶことで,世の中を知る

——先生が専門としている「家族法」とはどんなものでしょう?

大杉麻美教授(以下大杉):民法には第1編~第3編までの財産法と,第4編「親族法」と第5編「相続法」があります。このうち第4編と第5編を合わせて家族法と呼んでいます。夫婦や親子の関係を扱うものです。

私の研究テーマは主に離婚法,夫婦関係法です。夫婦の間におこるさまざまな日常の困りごとを解決するための方法を中心に,法律の視点から切り込んでいます。

——夫婦の財産をどう分けるかなどは,法律で定められていますよね?

大杉:例えば,離婚のときには法律で「協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することができる」としています。夫婦の財産には他にも,結婚しているときの生活費について等,夫婦の状況に応じて法律が柔軟に対応することができるよう,条文が作られています。

同性婚や代理出産,特別養子縁組などにも注目が集まっていますが,家族法は「家族のあり方そのもの」を考えていく学問分野です。家族の誰かが亡くなったときに,その人の財産をどうやって承継していくかというようなところも家族法の領域になっています。

——条文を使って,当てはめて答えを出すだけではないんですね。

大杉:条文を「覚える」ことも大切ですが,その条文を理解して「世の中に役立てていく」ことがもっと大事です。離婚したり親が亡くなったりして揉めているとき,法律をどう理解すると合理的な解決に結びつくかを「考える」のが,法律を学ぶ面白さであり,世の中を見ることにつながります。

変わる家族。家族法は対応できている?

——LGBTQなど多様性が尊重されるようになり,家族も変化していますよね。家族法は対応できているのでしょうか?

大杉:嫡出推定制度(婚姻届を出している夫婦の間に生まれた子と父との関係を明確にする制度)が新しくなるなど,変わりつつあります。ですが,家族の多様性に家族法が対応できていない状況もあります。

——どのように対応したらよいのでしょうか?

大杉:たとえばDVがあって「今すぐ離婚したい」となったとします。他方条文には,協議上の離婚をするときは,子との面会交流や,子の養育費等,必要な事項を父母の協議で定めることとしています。この協議をサポートするために,国や自治体,民間団体などが連携しています。

DVは警察,子どもがいれば児童養護施設など多くの機関が離婚問題と同時に関わることになるので,いかに連携していくかも大事です。その意味で,家族法は理屈のなかだけに閉じこもってはいられない学問であると思います。

法律の面白さ,考える楽しさを味わってほしい

——当たり前にあるように思える法律も,変わってきて今があるんですね。
法律は人を罰するためにあるのか,それとも人を守るためにあるんでしょうか?

大杉:民法の分野は市民のための法律といわれています。社会にはいろいろな人がいて,様々なことが起きます。その調整機能的な役割を果たしているのが民法で,このルールがあるからこそ私たちは安心して自由に生活ができるのだと思います。

——法律の魅力が少し分かった気がします。法律学科で学ぶ学生は,より理解を深められるでしょうか?

大杉:はい。柔軟に考える力が身につくと思います。社会に出てしまうと,なかなかゆっくりと勉強する時間がとれません。日本大学の法学部には素晴らしい図書館があります。また水道橋という立地にも恵まれています。ぜひ講義の間にたくさん本を読み,自らを考え,家族を考え,社会を考えて,思考が高まる楽しさを感じてください。

とくに法曹を目指す学生には1年次の5月から参加できる「司法科研究室」があります。ここでは,弁護士として活躍するOBOGから直接,指導を受けることができます。また,1クラスの人数も少ないため,仲間と共に学び,合格を目指すことができます。先輩が後輩を指導するのは,日本大学法学部の伝統でもあります。

多くの仲間と「交流」し,ゼミに所属し,仲間や先生と「語り合い」,有意義なときを過ごしてください。皆さんとお話しできるのを楽しみにしています。

Profile

法律学科

大杉 麻美教授

Oosugi Mami

明治大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。札幌学院大学法学部助教授,明海大学不動産学部教授を経て,2018年より日本大学法学部教授。専門分野は家族法・相続法。研究テーマは離婚に関する法的諸問題・資産承継をめぐる法的諸問題。