研究 × 実社会

Research 03

私たちの考えはマスメディアや
SNSの情報から生まれる?

新聞学科

三谷 文栄准教授

個人が様々な情報にアクセスできるようになった一方,フェイクニュースが広まったり,感情的で大きな声の発信に影響されたりする問題もあります。私たちはどのようにメディアの影響を受け,どうしたら情報の正しさに気付く感度を持てるでしょうか。政治学や法学,社会学など多視点からジャーナリズムやメディア,情報について学べる,新聞学科の三谷文栄准教授に伺いました。

法学部にある新聞学科で,多様な視点からメディアを知る

——「新聞学」とは,メディアやジャーナリズムについて探求する学問ですよね。法学部にあるのが意外でした

三谷文栄准教授(以下三谷):日本大学の新聞学科は,GHQの求めに応じて1947年に設立しました。法学部の中にあるのは,政治や経済,法律の知識を持ったジャーナリストの育成が重要とされたことがあります。

ジャーナリズムやメディアを学ぶ学科は,「新聞学」や「メディアコミュニケーション学」など名称は様々ですが,日本では文学部や社会学部内にあることが多いです。とはいえ,ジャーナリズムやメディア,そして情報は民主主義社会において,必要不可欠なものだと考えると,法学部にあることは当然のことだと言えます。現在の新聞学科は,ジャーナリストを育成するということのみならず,ジャーナリズムやメディアについても広く学べる学科へと発展しています。

——ジャーナリズムやメディアについて学ぶことは,私たちの社会でどう重要になってくるのでしょう?

三谷:私たちの身の回りには大量の情報が流通しますが,そうした情報が私たちの社会,ひいては民主主義を成り立たせています。そのため,情報を発信する側となるジャーナリズムだけではなく,私たちが情報を入手するために日常的に利用するメディアについて学ぶことも,それと同じぐらい重要です。

本学の新聞学科は,ジャーナリズムだけでなく私たちの日常生活には欠かせないメディアに関して法学,政治学,社会学といった多様な視点から学ぶことができます。

——なるほど。先生の研究内容はどんなものですか?

三谷:マス・コミュニケーションが専門で,ジャーナリズム,メディアが政治・社会秩序の維持や安定化,あるいは分断や流動化にどのように関与しているのかを分析しています。

私たちは日常的に情報に接します。情報は国境を超えて流通していますが,マスメディアなどからの情報は,主に日本国家の枠組みの中で流通しています。行ったことがない地方についてもなんとなく知っていたり,見知らぬ人とも「あの話ね」と共通の話題を持てたりするのは,同じような情報を同じようなタイミングで受け取っているからです。

そうした情報のやり取りで,「想像の共同体」とも呼ばれる社会意識が形成されます。情報によって社会の秩序が維持される一方で,不安定になってしまう可能性もあります。

ジャーナリズムやSNSは政治に影響を与えている?

——気付かないところでも,情報は私たちの生活に密接に関係しているんですね。政治に影響を与えることもありますか?

三谷:マスメディアの効果を研究するものとして,政治コミュニケーションがあります。第1次,第2次世界大戦でのプロパガンダの影響を調べるところから生まれたものですが,徐々に選挙が主題になりました。選挙期間中にどのような情報が流れると有権者が特定の候補に投票するようになるのかを検証する研究です。確かに,選挙期間中の情報は重要ですが,投票行動は選挙期間中だけで決まるわけではありません。そのため,近年では日常生活で触れる政治に関する報道や情報も重視されるようになっています。

また,報道によって私たちが「何を議論すべきなのか」というアジェンダが決定されることもありますし,世論が高まれば政治の側もその声に応える必要が出てきます。マスメディアやジャーナリズムの政治への影響は,決して小さなものではありません。

——インターネットが発達し,YouTubeなどで個人も発信するようになりました。マスメディアの影響力は変化したでしょうか?

三谷:いまだに影響力を持っているのは確かですが,以前と比べると変化したといえるでしょう。その変化の中には,マスメディアやジャーナリズム組織に対する不信などが挙げられます。つまり,マスメディア以外からの情報入手が可能になってくる中で,マスメディアやジャーナリズム組織に対する不信や不満が表面化したといえます。それはニュースに対する不信にもつながり,マスメディアやジャーナリズム組織によるニュースに触れないという結果につながります。

——ニュースに触れないと正しい情報を得られないリスクがありますね。個人の意見が広まりやすくなったことにはポジティブな効果もあると思いますが。

三谷:2016年には,「保育園落ちた」という匿名ブログが大きなうねりを生み出しました。困っている人の声が届いて社会運動につながる事例もあります。しかし,SNS上で話題になっていても,それは多数の意見だと統計的にいうことはできません。また,都合のよい切り取り方をされてしまうという問題もあります。

現在では研究者はもちろん政治家にとっても,ソーシャルメディア研究は欠かせないものになっています。

間違った情報に踊らされないために

——AIを使ったフェイクニュースも増えています。正しい情報を見極めるにはどうしたらいいでしょうか?

三谷:フェイクニュースは巧妙で,人の関心を引くものです。面白さよりも,誰がその情報を発信しているのか,いつ・どこのニュースなのかといった基本的な情報や,出来事の政治的・社会的・歴史的な文脈を確認すると良いと思います。

そして情報はニュースからのみ得られるのではありません。何気なく触れている漫画やドラマなど,ポピュラーカルチャーにも政治的な考えや,常識,社会規範が埋め込まれています。それに気付ける敏感さも情報の見極めに役に立つと思います。

——新聞学科で学ぶことで,情報と付き合う感性も身につけられますか?

三谷:社会問題など扱う対象が幅広く,学生からは自分では接しない情報に触れることができて良かったと聞くこともよくあります。

私たちの日常生活を彩る様々な情報が,そして私たちが日常的に利用しているメディアが,私たちにいかに影響を及ぼしているのか。それが社会的,政治的にいかなる意味をもたらすのか。新聞学科はそうしたことを多様な視点から学べる学科です。メディア,ジャーナリズムに関心がある学生とお会いできるのを楽しみにしています。

Profile

新聞学科

三谷 文栄准教授

Mitani Fumie

2017年慶應義塾大学博士(法学)取得。18年日本大学法学部助教,19年同専任講師,20年から准教授。専門分野は政治コミュニケーション。研究分野は政治学,国際関係論,社会学。