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TOP推薦図書紹介 推薦図書紹介図書委員からの推薦図書 2014 Vol.2Thomas Piketty著 Arthur Goldhammer英訳 『Capital in the Twenty-First Century』 Harvard University Press 2014年気鋭の経済学者による格差論。著者はパリ経済大学教授。2013年に仏語で出版され,ただちに英訳された。資本の収益率が経済成長率を上回り資本を持つものに富が集中していき,経済格差を拡げていく。資本を相続したものは生まれながら優位にある。Pikettyは,30人をこえる共同研究者とともに,経済格差と所得分配,富の分配と富と所得の関係,についての20か国,長期にわたるデータベースを構築し,そこから以下のような結論を得た。 岩崎美紀子 著 『二院制議会の比較政治学:上院の役割を中心に』 岩波書店 2013年本書は,その題名が示すとおり,上院の役割にもスポットを当てて,カナダ,イタリア,スペイン,ドイツなど主要国の二院制議会の実態を比較・分析した良書である。わが国では,いわゆる「衆・参ねじれ」状態が解消されて久しい。しかし,二院制および上院(日本では参議院)のあり方や,再び「ねじれ」が生じた場合の政党間の制度的取り決めなど,根本的かつ具体的な問題は,やはり未解決のまま残ってしまったようだ。 石弘之,安田喜憲,湯浅赳男 著 『環境と文明の世界史』洋泉社 2001年東日本大震災が社会に与えた影響は,様々な面で顕著であった。その余波をうけてか,「環境」をめぐる議論は,一時期ほどの活発さがみられなくなったことも事実であろう。そこで,あらためて環境をめぐる問題を考え直す意味でも,この本をとりあげてみたい。本書は,環境学・環境考古学・比較文明史といった分野の専門家が集まり,語らいあった対談集である。その狙いは,冒頭において明晰に語られる。環境論・環境問題を真っ先に取り上げたレイチェル=カーソンの『沈黙の春』から始まり,環境論の発達をもっとも阻害していた要因が,歴史学であったこと,それもマルクス主義歴史学であったことが語られ,鮮烈な印象を残す。その印象を失うことなく,三者の対談は,ネアンデルタール人の時代から,古代ローマ,そして中世ヨーロッパを経て現代にまで,まさに縦横無尽・快刀乱麻のごとく展開する。まさに環境を縦糸に,歴史を横糸に配しながらの知的興奮を伴った議論である。思えば,3・11後に問題となったエネルギーをめぐる議論も,やはり環境を抜きにしては語ることはできない。ビッグスポーツイベントを誘致せんがため原発問題は解決済みとし,国際社会へもみずからそれを語る人間がリーダーとなっている(してしまった)昨今の状況を省みるためにも,今一度本書を読んで考え直してみたくなった。 伊藤冨士江 編著 『第2版 司法福祉入門: 非行・ 犯罪への対応と被害者支援』 上智大学出版 2013年近年,犯罪に対する社会の見かたは厳しくなっている。飲酒運転によって生じる交通犯罪,蔓延する薬物犯罪などについては,新たな犯罪が規定され,処罰される範囲は拡げら れてきた。しかし,薬物などの依存症者による犯罪に対し重い刑罰を科すことが再犯の防止につながっているのかは疑しい。また,犯罪に陥った人々に対する施策が充分なものでないことが指摘されている。本書は,司法が法の適用による規範的解決を図るものであり,福祉は個別の事態に即した問題の解決と支援を目指すものであるとして,両者の統合と実践が必要であると説く。そのうえで,従来から少年犯罪・非行に関しては,司法と福祉の両面からの取り組みが行われてきたが,今後は,いじめ・児童虐待・DV・高齢者犯罪などについても検討が必要であるとする。本書の特色は,制度の概要が簡潔にまとめられ,かつ具体的事案が紹介されていることである。また,研究者だけでなく実務家や当事者の多くのコラムがあることもユニークである。本書は,現在の,そして現実の犯罪の実態を示しつつ,そこで何が必要なのかを考えさせてくれるものである。 |