• 2011.10
  • The Changing Constitution
  • 『史学概論』
  • 『大学とは何か』
  • 2011.08
  • Debates on democratization
  • 『現代商取引法』
  • 『遺言と遺留分 第1巻 遺言 第2版』
  • 『人間・社会・法』
  • 2011.04
  • Europäisierung des Rechts, Herausgegeben von Herbert Roth
  • 『近代日本司法制度史』
  • 『要説:日本の財政・税制』
  • 『数学は言葉』
  • 2011.02
  • 『The Failure of Civil Society? The Third Sector and The State in Contemporary Japan』
  • 『マックス・ウェーバーの社会学 「経済と社会」から読み解く』
  • 『メディアと日本人』

TOP推薦図書紹介

推薦図書紹介

図書委員からの推薦図書 2015 Vol.2

青木千賀子著『ネパールの女性グループによるマイクロファイナンスの活動実態:ソーシャル・キャピタルと社会開発』日本評論社2015年

世の中には理不尽なことが多い。一生懸命に地道に頑張っている人々の命を奪う自然災害はその最たるものであろう。2015年4月25日に起きたネパール大地震もその一つであろう。しかも,5月5日付の英紙ガーディアンによれば,大地震で被災した若い女性たちが人身売買のターゲットになっているという。とてもにわかには信じられない話だが,このニュースに接して本書を思い出した。自然災害どころか,社会の仕組みのなかに理不尽が埋め込まれている国がいまだにあるという話だ。
本書は,ネパールにおけるカースト制度の最底辺におかれた不可触賤民のダリットの女性,とくにそのなかでも売春を生業としていた階層の女性グループへの綿密な聞き取り調査により,ダリットが置かれている不条理とさえいえる現状を活写したものである。ネパールの現状の記述は,あまりの理不尽さに言葉もないが,不条理を単に嘆くだけではなく,マイクロファイナンス活動とその結果うまれるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を通じて,人間として基本的な権利や機会が保障されていない「人間貧困」からの脱却策を模索したもので,社会的意義と志の高い著作である。
また,専門書としても,マイクロファイナンスがもつ女性へのエンパワーメント効果の検証,マイクロファイナンス活動とソーシャル・キャピタルの間の相互作用とそれがネパール社会へもつ効果の分析など興味深い視点を提供している。平和で安全な,そして豊かな日本では夢想だにできない現状を扱ったもので,日本の若者にも是非一読してもらいたい一冊である。
[稲葉陽二教授/所蔵予定]

T.ポグントケ/P.ウェブ編 岩崎正洋監訳『民主政治はなぜ「大統領制化」するのか―現代民主主義国家の比較研究』ミネルヴァ書房2014年

種の境界線を越えて「犬」が「猫」になることはない。憲法改正でもしない限り,その国の政治制度が「議院内閣制」から「大統領制」に変わることもない。ところが本書は,複数国の比較研究を通じて,政治の〝ハード〟として議院内閣制や半大統領制を採用していても,政治運営や意思決定,選挙キャンペーンの方法など政治の〝ソフト〟の部分では,いわゆる(アメリカ型)「大統領制化」が進展してきたと主張している。政治の「大統領制化」とは,大雑把に言えば,<執政府・政党・選挙>という三つの側面で,内閣や与党主体の「集団」中心型政治が,首相・党首・候補者に代表される「個人」主導型の政治に変化していく現象である。言い換えれば,現代民主主義国家の政治では,(その人柄やイメージも含めて)「リーダー」の存在と役割が今まで以上に大きな意味をもつようになってきたということでもある。おそらく今の日本もその例外ではあるまい。
では,なぜそうなるのか。その原因については,本書を読んで皆さんにじっくり考えてもらいたい。ただ,忘れてはならないのは,現代民主政治において「新・旧メディア」の果たす役割が以前とは比べものにならないほど大きくなっているという事実であろう。
[渡辺容一郎教授/3F L301演習室]

森 炎著『教養としての冤罪論』岩波書店 2014年 

冤罪事件は今も後を絶たない。にもかかわらず,冤罪は過去の制度で起きたこと,つまり警察の横暴な取調べや糾問主義な裁判が行われていた時代の名残ととらえがちであることも否定できない。これまでの書物の多くは,冤罪を生む構造が制度の歪にあることを指摘し,また国家権力への批判に重点を置くものであった。これに対して本書は,新たな視点で冤罪を論じるところに特色があり,そこが眼目になっている。著者は言う。「冤罪を日常的感覚で知ることを可能にする,そのための試みである」。つまり,刑事裁判においては常に冤罪が生じるリスクがあることを知り,一般の市民が「冤罪感覚」を持つことこそが重要であるとする本書の立場は,従来の冤罪論とは違う問題意識で著されたものと言ってよいだろう。また,このような見方は裁判員裁判においてより大きな意義を持つことになる。
著者は裁判官の経験をふまえて,過去の冤罪事件を類型化したものを「理念型」として掲げ,具体的な事実に即しつつ冤罪が生まれる過程を分りやすく説いている。紹介される事件の中には著名なものも多くあり,そのとき市民は様々な印象や感覚を持ったに違いない。そして本書を読むことで,同じ事件に対して持つ感覚は違うものになるはずである。
 [岡西賢治准教授/4F西開架]

このページのトップへ戻る