推薦図書
『神聖ローマ帝国:「弱体なる大国」の実像』
- 著者名 : 山本文彦著
- 出版社 : 中央公論新社
- 出版年 : 2024年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2024 Vol.3
神聖ローマ帝国は,962年のオットー1世の戴冠から,1806年のナポレオンによる解体まで,およそ850年近い歴史を持ちます。しかし,その実態には謎が多く,私たちが「帝国」という言葉で思い浮かべるような,単純な強国ではありませんでした。17世紀の法学者プーフェンドルフは,自分が住む帝国を「怪物」のようなものであると捉え,ヨーロッパの一般的な国家概念に当てはまらないと断じました。18世紀フランスの哲学者ヴォルテールが,「神聖でも,ローマ的でも,帝国でもない」と評したことは有名です。同時代に生きているひとびとにとってすら,この帝国は不可解な存在だったのです。21世紀になっても,神聖ローマ帝国に対するイメージは刷新を続けており,そのひとつに,ウェストファリア条約の位置づけがあります。従来,ウェストファリア条約は,帝国の死亡診断書と呼ばれ,これをもって帝国は著しく形骸化したと考えられていました。しかし,この説は現在支持されていません。また,皇帝が主導で設立した帝国宮内法院は実質的に機能していなかったという説も,今では否定されています。本書は,現在の研究状況を通覧する上で,入門的な役割を果たしてくれるでしょう。
(出雲孝教授/1F新着図書コーナー 234.04||Y 31) ※赤字をクリックでOPACにつながります
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