推薦図書

『米軍基地権と日米密約 : 奄美・小笠原・沖縄返還を通して』

  • 著者名 : 信夫隆司 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2019年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2019 Vol.4
「日本に米軍基地は存在しない」。
冒頭のこの逆説的な言説は,本書が取り上げる問題の本質を端的に示している。日米安全保障条約をめぐる交渉においては,正式な合意とは別に多くの密約が存在していたことは周知のとおりである。条約上は日本が存在を認めていない基地について,アメリカは基地権を主張しつつ,日本における軍事的展開の自由だけでなく米軍関係者の権利・利益の優越的な保護を要求し,双方の主張は対立したものの,結果的に日本側はこれを受け入れた。米軍関係者に対する刑事裁判権の事実上の抛棄もそうした優遇のひとつである。
ジラード事件や伊江島事件以後も米軍関係者による犯罪は絶えず,日本側の事件処理に対する国民の不信感は根強く残っている。これを払拭するためには交渉の過程でどのような合意があり,またどのような方法で決着したか等を,事実に基づいて検証することが重要であり,かつ不可欠である。新たに発見した文書を含む膨大な資料の中から交渉に関わる事実を明らかにしようとする本書は,今なお基地をめぐる議論が続いている状況にあって指標とすべき研究論文であり啓蒙書である。
(岡西賢治准教授/4F東開架)