推薦図書

『死刑〔I〕』

  • 著者名 : ジャック・デリダ著,高桑和巳訳
  • 出版社 : 白水社
  • 出版年 : 2017年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2019 Vol.3
本書は1999年~2000年にパリの社会科学高等研究院でジャック・デリダが行ったセミネールの講義録である。フランス現代哲学の巨匠の一人であるデリダの哲学は難解をもって知られるが,「脱構築」という彼の用語を聞いたことのある方も多いのではないだろうか。
セミネールにおいて,デリダは死刑をめぐる法学,哲学,文学領域のさまざまなテクストを選んで丁寧に読み直しつつ,これらを脱構築していく。19世紀フランスの文学者ヴィクトル・ユゴーの例を挙げてみよう。徹底した死刑廃止論者だった『レ・ミゼラブル』の作者に対して,彼の言説の背後に,自分が死刑になることへの恐怖と権力への意思があると主張したのは詩人シャルル・ボードレールだ。デリダはボードレールの言を「是認していない」としながらも,あえて彼の告発を引用する。ここに脱構築という作業がもつ極めて重要な一側面が浮かびあがる。人間の言説(ディスクール)の危うさを思うとき,これは決して放棄してはならない思考の営為なのではないか。そこには,不断に自らの倫理的立場を検証し続ける,きわめて強靭な意思が認められるように思われる。
死刑問題そのものを哲学するこの書を,法学部の学生の皆さんにぜひ読んでもらいたい。
(江島 泰子教授/3F東開架)