推薦図書

『ライシテから読む現代フランス:政治と宗教のいま』

  • 著者名 : 伊達聖伸 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2018年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2018 Vol.3
「ライシテ」(laïcité)という語は,19世紀のフランスで生まれた。「政教分離」,「非宗教性(脱宗教性)」等の訳語が存在するが,その内容は多岐にわたる。日本におけるライシテ研究の第一人者伊達聖伸がこの語を日本語に訳さずに使用する理由は,そこにある。
本書は,同性婚を認めた「みんなのための結婚」法(2013)に反対する「みんなのためのデモ」,シャルリ・エブドー襲撃事件(2015)後の「わたしはシャルリー」のデモをめぐって,現在のフランス社会のありようを精緻に分析している。また,2017年の大統領選挙における各候補者の,宗教に関連する主張の差異を知ることができる。イスラム教の女性たちがかぶるヴェールをめぐって(いわゆる「ヴェール問題」),ムスリムたちの置かれている現状や彼らの様々な考え方の検討にも多くのページが割かれている。ライシテは「フランス的例外」と言われたりすることもあるが,必ずしもそうとは言えず,最終章にはカナダおよび日本におけるライシテの考察がある。
多くの写真,図,グラフ,挿絵を配した本書は,学術的事柄を丁寧に解説した内容とともに,読者への配慮が感じられる一冊である。
(江島 泰子教授/4F東開架)