推薦図書

『餓死(うえじに)した英霊たち』

  • 著者名 : 藤原彰 著
  • 出版社 : 青木書店
  • 出版年 : 2001年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2018 Vol.3
本書は,アジア・太平洋戦争における日本軍戦没者の過半数が,広義の餓死であったという衝撃的な事実の提示に始まる。第一章は,各地の戦場における日本軍の作戦行動の結末と戦死の実態を検討し,それが「名誉の戦死」などと言えるものではなく,「飢餓地獄の中での野垂れ死に」であったことを明らかにする。第二章では,大量の兵士の「餓死」は偶然や自然現象の産物ではなく,作戦の誤りに原因があること,すなわちエリート参謀たちの立てた作戦計画における補給軽視の姿勢や,作戦目的達成のためには他を犠牲にしても良いとする作戦第一主義により非人間的な命令が発せられたこと,などが原因として指摘された。そして第三章では,こうした非人間性を生み出す日本軍という組織の問題点として,精神主義への過信,上官への過度の服従強制と兵士の人権・生命の軽視,幹部教育の偏向,日本軍の捕虜禁止政策が生み出した「玉砕」の思想があぶり出されていく。
本書の著者である藤原彰(1922-2003)は,陸軍士官学校を卒業し,19歳で見習士官となって中国を転戦,敗戦時は本土決戦師団の大隊長を務め,復員後に東大に入り直して,現代日本政治史・軍事史を専攻する歴史学者となった。自らの戦場体験を学問に昇華した,この晩年の名著が明らかにした日本軍の体質は,現代日本の官僚組織やスポーツ系部活動の体質と無縁ではない。いまこそ読まれるべき書物である。
(大岡 聡教授/5F東開架)