推薦図書

『世界史の構造』

  • 著者名 : 柄谷行人 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2010年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2017 Vol.5
極めて大掛かりなタイトルの本だが,ここには著者の危機意識が現れている。歴史の理念なき現在,「世界史」とは,詰まるところ力と資本の支配する舞台にすぎないのだろうか。著者はこのような見方に対し,むしろ力と資本がどのような構造において発生するのかを問う。この視点の取り方,言い換えれば抽象力にこそ,いま学ぶべきものがある。
まず柄谷は,歴史を見る際の視点を労働や生産からではなく,人々の間や,人間と自然との間で引き起こされる交換に着目する。交換の様式からこそ,「世界史の構造」を見るべきだと主張するのである。そして三つの交換様式,すなわち「ミニ世界システム」・「世界=帝国」・「近代世界システム」を提唱することで,互酬性(共同体/ネーション)・収奪と再分配(国家)・世界経済(資本)の連関について解き明かそうとするのだ。
だが著者は,上記三つの交換様式に対して,これらを超えた交換様式が存在しうることを最も重視している。この意味で,『世界史の構造』は,その構造の外部を指し示すためにこそ書かれている本なのである。この理論をどう評価するか,本書に対する本格的な吟味は,これからの時代において必須の作業であろう。
(宮澤 隆義専任講師/4F東開架)