推薦図書
『尖閣問題の起源 : 沖縄返還とアメリカの中立政策』
- 著者名 : ロバート・D・エルドリッヂ 著/吉田真吾・中島琢磨 訳
- 出版社 : 名古屋大学出版会
- 出版年 : 2015年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2017 Vol.2
本書は,沖縄返還時(1972年)の尖閣諸島をめぐる日米交渉と台湾の態度,その後の日中台の領有権主張に対して米国が中立政策をとるに至った過程を明らかにする。尖閣諸島は対日平和条約第3条により,1951年以降,琉球諸島の一部として米国の統治下におかれたが,1968年に国連アジア極東経済委員会が同諸島周辺の海底に石油や天然ガスが埋蔵されている可能性が高いとの調査結果を公表すると,台湾と中国が領有権を主張しはじめた。沖縄返還協定交渉において,日本側は返還区域に尖閣諸島を明記することを主張したのに対し,米国は同盟国台湾との関係悪化を恐れた結果,「合意議事録」では返還区域を緯度と経度で示すにとどめ,島名を記載しなかった。この時期,ニクソン政権は中国との関係正常化をすすめていた。米国は,日本に施政権は返還するが,領有権については当事国間で平和的に解決すべきとの立場をとり,これは今日においても変わっていない。著者は,日本の主張の正当性を認めながら,中台に配慮して曖昧な態度をとった米国が,今日の尖閣諸島をめぐる日中の対立を招いたのだと指摘する。米国の解禁された外交文書,当時の関係者へのインタビューを駆使した本書は,尖閣問題を研究するうえで不可欠の一書である。
(喜多 義人准教授/4F東開架)
(喜多 義人准教授/4F東開架)