推薦図書

“The Ancient City : A Study on the Religion, Laws, and Institutions of Greece and Rome”

  • 著者名 : Numa Denis Fustel de Coulanges
  • 出版社 : Johns Hopkins University Press
  • 出版年 : 1980年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2017 Vol.1
本書は,19世紀フランスの歴史家フュステル・ド・クーランジュ(1830~1889)の代表的著作『古代都市』La Cité antique (1864)の英語訳であり,訳者名が表記されていないが,1873年刊行のウィラード・スモール(Willard Small)の手になるものである。同訳はアメリカで出版されて,多くの読者を得たといわれ,日本でもこれに基づいた翻訳が出ている。第1編 古代の信仰,第2編 家族,第3編 都市,第4編 革命,第5編 都市政体の消滅の5編からなり,とくに第1編で語られる,キリスト教以前の古代地中海世界の信仰,死者に対する感情,埋葬の意味,霊魂についての考え方,祖先崇拝などの叙述は,日本の親族制度をめぐる議論の歴史の中で,穂積陳重,八束,中川善之助をはじめとする多く人々の関心を引いてきた。本書に付されたモミリアーノの序文にも示されるように,メイン『古代法』(1861年),バハオーフェン『母権制』(1861)と並んで,近代における家族法史研究の端緒をなす必読書として是非とも紐解いてほしい1冊である。原著は現在もフラマリオン社のペイパーバック版などで容易に入手可能である。邦訳として,田辺貞之助訳の上下2冊本(1944-48年)が本館に所蔵されているほか,その改訂版(1961年,新装復刻版 2011年)も出ている。ドイツ語訳版Der antike Staat (übersetz von Paul Weiß, 1907)も特別書庫に所蔵されている。この署名がStadtではなく,Staatとなっている点,Citéとギリシャのポリスとの関係を強調する古代史家フィンレイの指摘とあいまって興味深いところである。
(吉原 達也教授/6F西開架)