推薦図書

『多数決を疑う : 社会的選択理論とは何か』

  • 著者名 : 坂井豊貴 著
  • 出版社 : 岩波新書
  • 出版年 : 2015年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2016 Vol.5
多数決は民主制における決定方式として本当に正しいのか?これが本書の提起する問いだ。民主制での意思の決定方式として多数決ルールが採用されるのは,憲法の規定などからも当然と思われるかもしれない。しかし,多数決が「最善」のルールというわけではない。本書でも紹介されるように,多数決は「票の割れ」に弱いなど,いくつもの弱点を抱えている。
本書は「社会的選択理論」をもとに,民主制における「投票」の実態を検討している。社会的選択理論はもともと数理分析を基礎とする学問だが,本書は数学の知識がなくとも読み進められる。豊富な実例や,手際の良い理論の解説によって,読者は社会的選択理論の世界に引き込まれていくだろう。テーマが「投票」であるだけに,そこでは選挙における投票や住民投票,さらには憲法改正の投票についてまで議論が及ぶ。とくに著者が憲法96条の定める「3分の2」という改憲発議のハードルをそれでも「弱い」と断じるあたりは,憲法学からも興味深い。改憲論議やアメリカ大統領選など,「投票」をめぐる問題がそこかしこに転がっている今だからこそ,民主制とその意思決定方式について考えてみる好機だろう。法学部の学生すべてにおススメだ。
(玉蟲 由樹教授/4F東開架)