推薦図書

『憲法徒然草』

  • 著者名 : 尾吹善人 著
  • 出版社 : 三嶺書房
  • 出版年 : 昭和58(1983)年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2015 Vol.3
安保法案をめぐる喧噪が過ぎ去った。にわかに憲法学者が注目を浴び,国会審議や世論に大きな影響を与えた。安保法制に対する違憲訴訟を準備中とか。付随的違憲審査制を採用する裁判所がどう判断するか,およそ結果は見えている。
ここに紹介するのは,昭和の終わり頃に刊行されたエッセイ集である。思い立って数十年ぶりに再読した。内容が古びていないのが悲しい。著者はいう。「素人の市民は一般のジャーナリズムの憲法論議の傾向をそういうものかと素直に受け止め,未熟な法学生もまた特定の傾向をもった法律ジャーナリズムの大勢に順応しているように見える。日常無意識の間に頭にまわっているかもしれないそういう毒を中和しようというのが,この本の目的である」(はしがき)と。
著者のいう「毒」は30数年を経て中和されるどころか,憲法学者やジャーナリズムの一部では膏肓に入ったかのようだ。「毒」の正体は何か。憲法学者,憲法論議,そして裁判を俎上にあげ,鮮やかな包丁さばきでそれを示してみせる。
著者(故人)は,かつて本学法学部教授として憲法を講じていた厳格な憲法解釈学者。その講座を現在担当する者として,遙かに及ばざることを自覚し自戒し仰ぎ見つつ,学生諸君に一読を勧める。
(東 裕教授/4F西開架)