推薦図書

『誠実という悪徳』- E.H.カー 1892-1982 

  • 著者名 : ジョナサン・ハスラム 著
  • 出版社 : 現代思潮新社
  • 出版年 : 2007年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2015 Vol.3
岩波新書「歴史とは何か」の著者E.H.カーに関する評伝。
書いたのはカーに師事した経験をもつケンブリッジ大学国際研究センター教授。カーの著作の秘密が何かわかるかという好奇心から,歴史家の卵は覘いてみたくなる本であろう。本のタイトルはなにやら小説みたいでおかしい。誠実であることが悪徳であるのか?好いた女性に失望して,愛はなくなっても,裏切らずに誠を貫き,女と切れない悪行をさすのか。訳者も頭を悩ませたに違いなく,訳者のあとがきで,これにふれている。好いた女性はロシアのこと,という私の解釈もあながち間違いではあるまい。
ハスラムは,最後のまとめで次のように書いている:『彼を触発して「ソヴィエト・ロシア史」を書かせた最初の希望は,確かに,彼の死後十年を経たずに起きたソ連の崩壊とともに,地に落ち,砕け散ったのかもしれない。しかし彼がそれを書いたのは,信念に基づいた行動としてであった。あのようなスケールの大部の著述を書き上げるのは,誰であれ,そのような希望のインスピレーションなしにはできないことであろう。彼のその信念は,生まれた場所を間違っていたのかもしれないが,しかし結実した仕事は,作者を突き動かしたもとの動機とは別に高い価値を持っているのである。(442ページ)』あなたは希望のインスピレーションを持っていますか?
(髙橋 徹教授/3F西開架)