推薦図書

『福島原発,裁かれないでいいのか』

  • 著者名 : 古川元晴=船山泰範 著
  • 出版社 : 朝日新書
  • 出版年 : 2015年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2015 Vol.1
内閣法制局参事官や京都地検検事正などを歴任した古川弁護士と,日本大学法学部で,人間学としての立場からの刑法学を牽引し続けてこられた船山教授との知的コラボレーションによってなった本書である。周知のように福島原発事故をめぐって原発告訴団は,数次にわたって行政と東京電力の関係者を,業務上過失致死傷害罪などで告訴した。これに対して東京地検は「行政と東京電力の関係者には過失責任を認め難い」としてこれを不起訴処分にしたのである。本書では新書という形をとりながら,この法理をめぐって膨大かつ重大な論考がおさめられている。これまで日本で裁かれた大事故や,裁かれなかった大事故などの事例を検証しながら,同時に刑事法の学説にまで論及し,「福島事故は『人災』である」との立場を明確にする。その上で,検察審査会の起訴相当との見解を詳細に解説し,「市民」の側に立った人間学としての立場からの法解釈を提起する。「起きる可能性が合理的に予測される危険については,責任者は未然に発生を防止する義務がある。また,それは法律によって,保障されないといけないのだ」と説くお二人の共著者たちの心の奥底からの叫びが聞こえてくるような新書である。
[藤原 孝教授/3F西開架]