推薦図書

“Maines Ancient Law,[ with introduction and notes by ]Pollock”(日本立法資料全集別巻482)

  • 出版社 : 信山社
  • 出版年 : 2008年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.5
本書は,19世紀イギリスの偉大な歴史法学派メイン(Sir Henry Sumner Maine, 1822­1888)の名著『古代法』(Ancient Law: Its Connection with the Early History of Society and its Relation to Modern Ideas, 1861)の復刻版であり,フレデリック・ポロックによる序文と注釈付のものである。メインは,本書において,人類文明の発展にともなう法進歩の方向を示すものとして,「身分から契約へ」(from status to contract)というテーゼを提示した。このメインのテーゼは,身分的ないし家族的統制と依存の関係が個人的な権利義務の関係に,つまり自由な法主体間の契約の関係におきかわるという意味で,諸個人の自由な意思決定を強調するものであり,そのかぎりで,まさに近代社会の構造原理を示すものであった。こうした法進化論的な構想は,19世紀の生物進化論の影響によってできあがったと考えられがちである。ピーター・スタインはその『法進化』(Legal Evolution, 1980)において,その発端を18世紀の道徳哲学の中に求め,生物進化論とも,社会進化論とも異なった法進化論の独自の系譜を巧みに描き出してみせる。法進化という視点は,ハチソン,ヒューム,スミス,フランスのモンテスキューらの影響を受けて発展を続け,メインの時代にその最盛期を迎えるに至った,というのである。もとよりメイン『古代法』は時代的な制約を受けていることはいうまでもないが,日本近代法の形成に大きな影響を与えたヨーロッパ法思想の古典として,これからも読み継がれていかねばならない著作であろう。なお本書は,Maine’s Ancient Law, [with introduction and notes by] Pollock, New York: Henry Holt, [1906] (4th American from 10th London ed.)の復刻版であり,スタイン『法進化』も同じく本館に所蔵されているので,合わせご参照を請いたい。
(吉原達也教授/4F東開架)