推薦図書
『フランス女性はなぜ結婚しないで子どもを産むのか』
- 著者名 : 井上たか子編・神尾真知子 他著
- 出版社 : 勁草書房
- 出版年 : 2012年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.5
2010年,日本の合計特殊出生率は1.39,フランスは2.01。少子化が焦眉の急となっている日本に対し,フランスは先進国では例外的といえる出生率の高さを誇る。本書は,日仏の家族観,結婚制度,国の子育て支援の在り方等を比較しながら,我が国の現状を打開する方途を具体的に考えることを企図している。著者として,日本経済新聞編集・論説委員,法学や比較人口学を専門とする研究者が名をつらね,それぞれの専門領域からの分析が大変興味深い。本学部で教鞭をとる神尾真知子教授の「フランスの家族政策と女性―『一家の稼ぎ手モデル』を前提としない家族政策とは?―」と題された第5章では,フランスにおける家族給付の概要と家族政策の特色が示されている。フランスの子育て関連政策は非常に緻密に構築されているがゆえに,複雑だ。本論文は,著者自身の作成になる図表等によって全体像が明解に提示され,我々の理解を助けてくれる。フランスの子育て給付システムには,日本にとって参考になる点が多いことがわかる。論文の後半部は,著者によるフランスの家族政策の検証である。日本の現状への言及も含み,「一家の稼ぎ手モデル」「選択の自由」「出産後の女性の就労」「水平的連帯と垂直的連帯」というキーワードによって,日仏それぞれの社会の在り方と国の子育て政策に関する諸問題が浮かび上がる。上野千鶴子をコメンテーターとする全体討論も含め,日本の少子化対策を考えるうえで,示唆的な書である。