推薦図書

『改訂新版 思想史のなかの科学』

  • 著者名 : 伊東俊太郎・広重徹・村上陽一郎 著
  • 出版社 : 平凡社
  • 出版年 : 2002年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.5
3・11以降,科学をめぐる言説のかまびすしさは記憶に新しい。科学とは何か?科学の役割とは?科学の本質とは?などなど,その議論はますます混迷の度を深めてきているようにも思える。そのような科学をめぐる言説を考えるうえで,本学の学生諸君に向けての有益な一冊をここに紹介しておきたい。この著作は,科学史の大家ともいえる人物が対談形式や執筆形式をとり,科学の在り方・歴史・理想像などを論じたものである。この中で,これまで人類は人類革命・農業革命・都市革命・哲学革命・科学革命という5段階の変革期を経て,そして現代は第6の変革期を迎えていることが述べられる。そして,第六の変革期である現代は,それまで科学を支えてきた要素主義や決定論などが次第に後景へと退きはじめ,そしてなによりも,西欧中心主義が終焉を迎え,西欧に淵源を求める科学が次第に他の地域の科学によって相対化されていることなどが語られた。つまり,近代を近代たらしめた要因の一つである科学は,西欧にその源を発し,そして発展してきた。そこから科学万能ひいては西欧崇拝といった考え方も生まれてしまい,その結果が今日の科学をめぐる諸問題へとつながっているともいえよう。それがまさに3・11以降に見られた科学をめぐる迷走の要因となったとはいえないだろうか。本書を通じて,科学とは何か?といった問いを今一度,再認識してもらえれば幸いである。
(黒滝真理子教授/3F西開架)