推薦図書
“An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations”
- 著者名 : Adam Smith著
- 出版社 : Oxford University Press
- 出版年 : 1976年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.4
スミスの『国富論』は政治経済学の古典中の古典であり,本書は経済学史上,19世紀以降に分化したあらゆる学派の源流である。すべての学説は,多かれ少なかれ本書を素材にして,それを批判したり修正したりすることを通して発展してきた。しかし,政治経済学の原型としての本書は,ただの経済理論として誕生したのではない。それは,当時の人文学や社会諸科学についての広範な考察を母体にして,産み落とされている。また,それは諸財貨の単なる数量的関係を,いわば即物的に問題にしているのではない。諸財貨の生産と交換の機構分析が,近代社会の市民相互の道徳感や法感覚と結び付けられているし,その規範的あり方とも関連付けられている。このように本書が人文学や社会諸科学に結び付けられており,それが理論の書であると同時に思想の書である点は本書の1つの大きな特徴である。即ち,人間と社会に関する豊かで細やかな観察に基礎を置いており,人間的真実を多く含んでいることである。また本書は,近代市民社会の経済的機構を理論的に分析しているだけでなく,この機構が封建制を切り崩しながら,どのような曲折をへて成立したかという歴史分析を含んでいる。
(山口正春教授/6F西開架)
(山口正春教授/6F西開架)