推薦図書

『裁判官はなぜ誤るのか』

  • 著者名 : 秋山賢三 著
  • 出版社 : 岩波新書
  • 出版年 : 2002年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.4
財田川事件,足利事件,ごく最近では東電社員殺人事件と,以前より冤罪事件が後を絶たない。本書では,先ず裁判官として冤罪請求事件に向き合い,その後も弁護士の立場から冤罪事件に携わる著者が,なぜ優秀な裁判官が誤判をし,冤罪事件が生まれてしまうのかを検討し,「市民のための裁判」には何が必要かについて提言がなされている。誤判の原因として著者は,「嘘の自白」をさせられた人の訴えを,自ら被疑者・被告人と接見して親身に聞くという体験が裁判官に乏しい上に,検察官の供述調書を読んで心証を形成することに慣れているため,自白を録取した供述調書が理路整然と迫真的に書かれているとし,被告人の供述よりも供述調書の方を信用してしまい事実認定を誤ること,マスコミ報道に毒され,裁判官が被告人に対し予断・偏見を抱いていることなどを挙げる。その上でそうした誤判を防ぐために,「人間知」「世間知」の不足を自覚すること,常に「庶民の目」を持ち続けることなどの裁判官のための実践則を提言する。裁判官と弁護士の経験に基づく著者の提言は,より実践的で多方面に及び,非常に説得力を持って述べられているため,裁判のあり方について深く考えさせられる書である。平明な言葉で,深い法的知識の無い者にも非常に分かり易く書かれており,一読することを勧める。