推薦図書

『「戦前」の正体 : 愛国と神話の日本近現代史』

  • 著者名 : 辻田真佐憲 著
  • 出版社 : 講談社
  • 出版年 : 2023年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2023 Vol.3
近現代史研究者の筆者は「神話と国威発揚との関係を通じて,戦前の正体に迫りたい」(6頁)と本書の趣意を明らかにします。そして「神武天皇」「軍人勅諭」「教育勅語」「神功皇后」,いわゆる「八紘一宇」「神社」(靖国神社)「軍歌・愛国歌」等々,これらが戦前どのように創出され機能してきたかが解き明かされていきます。「目から鱗」の内容の連続です。
総じて「明治の指導者たちは,神話を一種のネタとわきまえたうえで,迅速な近代化・国民化を達成するために,あえてそれを国家の基礎に据えて,国民的動員の装置として機能させようとした。(これは成功したが昭和になると)神話というネタは・・・ベタになり,天皇や指導者たちの言動まで拘束するようになってしまった。ネタを守るために国民(が犠牲になった)」(269頁)と指摘します。また「歴史はわれわれの日常に複雑に絡み合っているのであって・・・都合よく切り離せるものではない。多少,不愉快で同意できないものがあったとしても,適度に妥協しながら付き合っていくことが求められる。・・・問題なのは,祖先より代々という物語でわれわれを戦争に駆り立てることなのである」(167頁)とも述べています。そして戦前を全否定も全肯定もすべきでないとする筆者が戦前に「65点」をつけるあたりも面白いです。
(大山盛義教授/3F西開架 210.6||Ts 48)