推薦図書

『損害概念論序説』

  • 著者名 : 高橋眞 著
  • 出版社 : 有斐閣
  • 出版年 : 2005年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2023 Vol.4
民法,中でも債権法を学んだ皆さんは,「債務不履行(契約違反)による損害賠償」と言えば,これが基本的には「履行利益賠償」を意味することを知っているでしょう。本旨履行がなされたならば現在あったであろう財産状態を金銭的に実現する。もっとも,この履行利益賠償とは別に,「信頼利益賠償」という言葉を聞いた学生も少なくないと思います。民法総則でいえば,錯誤取消しによって契約が無効になる場合,債権法でいえば,いわゆる契約締結上の過失事例においてよく登場します。このように信頼利益賠償は,伝統的に,契約が不成立・無効なケースで問題とされる概念であり,履行利益賠償/信頼利益賠償は,契約の有効/無効と結びつけて論じられてきました。 しかし,近年日本でも,債務不履行による損害賠償として,無駄になった費用の賠償(=原状回復的損害賠償)を認めようとする議論が有力です。その嚆矢が,今回紹介する髙橋眞教授による一連の研究になります。履行利益(積極的契約利益)と信頼利益(消極的契約利益)とは,賠償によって回復されるべき状態の方向(因果関係の終点)を決定するための技術概念であることが示されました。履行利益賠償を理解するうえでも,本研究の理解は非常に重要だと思います。
(野中貴弘准教授/4F西開架 324.55||Ta 33.1)