推薦図書

『マルコムX : 人権への闘い』

  • 著者名 : 荒このみ 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2009年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2021 Vol.5
2020年,世界的に拡大した「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)運動のきっかけは,米国において白人警官が黒人男性を拘束し殺害した事件でした。米国での警官による黒人への不当な取扱いは以前から指摘され続けていた問題です。
さて昨年11月,「マルコムX暗殺犯人のうち2人の有罪が取り消された」というニュースが大きく報道されました(BBCやCNNなど2021年11月18日報道)。警察やFBIが無実の2人に有利な証拠を隠していたといいます。マルコムXは1950年代後半から黒人解放の活動家として活躍しましたが,1965年暗殺されてしまいました。彼は,同時代のアメリカの公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師とは行動を共にすることはありませんでしたが,不当な人種差別には「必要なあらゆる手段を用いて防衛すべき」と主張し,その思想はキング牧師と同様,現在も影響力を有しています。
本書は,マルコムXを,晩年の言説から「黒人解放」思想家と同時に人間の尊厳を求めた「人権活動家」として位置づけます。さらに2009年出版の本書では,先のマルコムX暗殺犯のうち2人は冤罪であることを早々に紹介しています。マルコムXの思想を理解するには『マルコムX自伝』が適当ですが,まずマルコムX入門の書として本書を推薦します。
なお在日アメリカ大使館領事部が公式Twitterで,日本の警察が外国人を「レイシャル・プロファイリング」しているので注意するよう在日米国人に警告を発した(2021/12/6)とのレポートがありました(東洋経済オンライン2021/12/15)。「レイシャル・プロファイリングとは,特定の人種や民族,肌の色,宗教などを対象に捜査活動を行うこと」です。国内の人種問題の克服に苦闘している米国だからこその敏感な警告ですが,これは日本の警察についての話であり他人事ではないでしょう。
(大山盛義教授/3F西開架 289.3||Ma 39.1)