推薦図書

『市民論』

  • 著者名 : トマス・ホッブズ著 ; 本田裕志訳
  • 出版社 : 京都大学学術出版会
  • 出版年 : 2008年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2021 Vol.2
法学は,自然科学が隆盛の現代においてもなお独立の地位を有している。なぜ法学が他の科学の方法論に還元されていないのか。このことは古くから問われ続けてきた。近代科学が勃興した17・18世紀は,法学が自然科学に還元されうるのではないかという期待が,とりわけ高まった時代である。この期待は自然法論と呼ばれる分野を形成し,法学の論理的な記述や,自然科学的知見にもとづいた人間本性の解明を目指した。イングランドの哲学者トマス・ホッブズも,近世自然法論を代表する人物のひとりである。ホッブズといえば大著『リヴァイアサン』(1651年)が有名であるけれども,同書に先立って公刊されたのが今回紹介する『市民論』(1642年)である。有名な「万人の万人に対する闘争(羅bellum omnium contra omnes,英the war of all against all)」は,本書の中で述べられた一節である。ホッブズは自然状態が戦争状態であることを仮定して,そこから国家の正当性とその権力の範囲とを論証しようとした。グローバル化を通じて国家の存在意義が問われる現在,政府のない状態とはいかなるものであるのかを,もう一度熟慮するきっかけがあってもよいかもしれない。
(出雲 孝准教授/3F東開架)