推薦図書

『非常時対応の社会科学 : 法学と経済学の共同の試み』

  • 著者名 : 齊藤誠, 野田博 編
  • 出版社 : 有斐閣
  • 出版年 : 2016年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2020 Vol.4
東日本大震災に対する直後の対応から今日に至るまでの政策などについて,科学や研究者はどのような評価をしてきたのであろうか。本書は,東日本大震災の検証を通じて,行政のガバナンスが欠如していたことや,非常時における紛争解決手段の未整備と情報基盤の欠如があったことを指摘したうえで,平時において非常時に向けての合意形成を進めるための方策と非常時における国家の財政の能力について考察するものである。従来から社会システムのあり方を法学と経済学から検討を加える手法は存在するが,戦後最悪の災害を目の当たりにして,建設的かつ真剣な議論が交わされた成果がここに現れている。
興味深い論点としては,平時においては機能している厳格なルールや暗黙の合意というものが非常時には非効率で不合理なものになるという指摘や,法の強制力に訴えるのかあるいは人々との合意によって行動を導くのかという議論,さらには非常時に対して財政的にどこまで関与しなければならないのか等,いままさに問われている難問について考察している点である。
これから起こりうる危機に備えた検討は,これまでの科学の知見を活かしつつも,その枠を超えた英知に依らなければならないことを本書は示唆している。
(岡西 賢治准教授/5F東開架)