推薦図書

『医療と特許 : 医薬特許発明の保護と国民の生命・健康維持のための制度的寄与』

  • 著者名 : 知的財産研究教育財団 編
  • 出版社 : 創英社/三省堂書店
  • 出版年 : 2017年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2020 Vol.4
コロナ禍の現在,有効で安全なワクチン及び治療薬が見いだされ,世界の人々に行き渡るのか,こうした緊急事態に必須の製品のイノベーションを促しつつそのアクセスを可能にする特許保護はどのようなものかという,いわゆる医薬品アクセス問題が世界的な関心を呼んでいます。本書では,故・竹田稔弁護士(元東京高裁部総括判事)の発案による研究会に参加した研究者や弁護士,製薬産業関係者が,医薬関連発明が物質特許や製剤特許等でいかに保護されるかという特許適格性(いわゆる川上対応),特許権取得後にその排他的権利を制限する種々の規定や強制・裁定実施権等(川下対応)の両面で制度改善を提言しています。日本については,医薬特許発明の特許適格性は狭すぎるという指摘に宛てた保護対象の拡大や,裁定実施権制度に代えて,政府による特許発明の利用の適切な制度化が指摘されます。国際的にも,国家が採る知的財産の効力の制限措置に関する検討・承認制度や,イノベーションに対する報酬と医薬品価格の切り離しを裏付ける実証研究,経済的社会的な要因を取り除く政府の措置を促す制度活用等が提言されています。とりわけ本書は,公共財としてのワクチンや治療薬の配分には言及しないものの,公共財とする上で,その生産と流通を左右する価格及び数量に知的財産がどう作用しているかを検討する必要があると認識させる力を有しています。
(加藤 暁子准教授/3F西開架)