推薦図書

『実践の倫理』

  • 著者名 : ピーター・シンガー著 ; 山内友三郎, 塚崎智監訳
  • 出版社 : 昭和堂
  • 出版年 : 1999年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2020 Vol.4
近代において宣言された人権の理念(「人は生まれながらに自由で権利において平等で…」)は,すべての人間を等しく主体,目的とみなす限りにおいて,倫理,法などの実践を理論的に基礎づけるものです。この理念こそが,現実の隷属,不平等,差別,人権侵害などへの抵抗を可能にします。しかしながら,それは,自然を単なる客体,手段として扱う限りにおいて,人間中心主義に他なりません。動物保護,環境保全関連の法制度が整備されるようになったとはいえ,人格は人(自然人)にのみ認められています(法人は除くなら)。「知は力なり」とばかりに,人間は,他の生物種を管理あるいは搾取してもよいのでしょうか。現在の環境問題はこのような人間中心主義が引き起こしているのではないでしょうか…
人間中心主義を種差別として批判しながら,オーストラリア出身の功利主義応用倫理学者ピーター・シンガーは,苦痛を感ずる動物の利益への平等な配慮を主張しました(ただし生命の価値の点ではまた別の考えを示しています)。『実践の倫理』(原著初版1979年刊行)は,彼を世界的に有名にした動物解放の思想のみならず,安楽死,中絶,環境問題などの他の実践的主題をも扱っています。
(吉澤 保専任講師/3F東開架)