推薦図書

『歴史から理論を創造する方法 : 社会科学と歴史学を統合する』

  • 著者名 : 保城広至 著
  • 出版社 : 勁草書房
  • 出版年 : 2015年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2020 Vol.3
歴史研究とは何なのか。このような課題と向き合ったのが本書である。同書では,人文科学の一分野としての歴史学と社会科学の一分野としての歴史の「統合」を試みている。著者は,歴史学者の多くが個別事例の詳細な分析にのみ関心を示し,全体的な歴史の理解に貢献しようとしないことを指摘している。一方で,社会科学者は,理論化に関心を示すが,都合の悪い事実を取捨選択しているとして,歴史学者と社会科学者の特徴を対比させている。その上で,両研究における問題解決のための方法論を提示しているところに本書のユニークさがある。
本書は,歴史研究における方法論を明快に示しているが,問題点も指摘されている。特に歴史学者からは,歴史学の見方が一方的過ぎると批判されている。そして,歴史学を画一的に捉えることで,「統合」ではなく,社会科学による歴史学の「接収」を行っているだけではないかとの疑問が提起されている。紙幅の関係で詳細な議論を紹介することはできないが,いかなる立場をとって歴史を研究するにせよ,歴史研究が抱える問題点を理解するうえで,本書は必読の文献となるだろう。
(三澤 真明専任講師/4F東開架)