推薦図書

『聞き書緒方貞子回顧録』

  • 著者名 : 野林健,納家政嗣編
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2015年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2016 Vol.1
「華麗なる一族」に生まれた一女性の「華麗なる一代記」― ― ― なるほど,確かにそうかもしれない。なにしろ,母方の曾祖父は昭和前期の総理大臣犬養毅,祖父は外務大臣芳澤謙吉,夫四十郎の父親はジャーナリスト出身で副総理まで務めた緒方竹虎である。1927年生まれの貞子自身は,外交官だった父に付いてアメリカと中国で幼年期を過ごし,1950年代にアメリカに留学後,結婚,子育てをしながら日本の大学で教鞭をとり,市川房枝の要請を受けて1968年の国連総会に出席。これが契機となって,国際舞台で大きな役割を担い続けることになる。殊に,国連難民高等弁務官としての活躍は,広く知られているところであろう。しかし,である。本書は単なる一代記にとどまるものではない。たとえば,クルド,ルワンダ,ユーゴ等の難民問題の複雑さ困難さが,当事者ならではの切り口で手際良く語られ,国際政治に関するいわば生きた啓蒙書ともなっている。その中で― ― ―貞子の教え子でもある編者両名との信頼関係がそうさせるのだろうが― ― ―現場を重視し,直感を信じ,コミュニケーション力を駆使して行動するしたたかでしなやかな彼女の姿勢が,鮮やかに浮かび上がり,国際舞台で生きることの過酷さとそれ故の誇りが重く迫ってくるのである。
(織田 有基子教授/3F西開架)