推薦図書

“Das Mutterrecht : eine Untersuchung über die Gynaikokratie der altén Welt nach ihrer religiösen und rechtlichen Natur, Stuttgart”

  • 著者名 : Bachofen,Johann Jakob 著
  • 出版社 : Krais & Hoffmann
  • 出版年 : 1861年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2015 Vol.4
1冊の本が歴史を通じてどのように読まれたか,その軌跡を辿ることによって,その書物自体のさまざまな側面だけでなく,その書物が読まれた時代の知的局面あるいは読み手自身の知的断面が浮かび上がってくる。バハオーフェン(1815~1887)の『母権制』(1861年)はそうした書物の1つに数えることができよう。
この本が人類学者たちのアカデミックな家族起源論争の発端になっただけでなく一方でエンゲルスやベーベルといった社会主義者たち,他方でクラーゲスやボイムラーといったナチス登場前夜の非合理主義的なネオロマンティカーたちという政治的にも世界観的にも対立する左右の両陣営によって熱烈に支持されたり,フェミニズムや精神分析の成立にも大きな足跡を残したことは,この本が知の歴史に及ぼした振幅と射程の広さを物語っている。今年2015年は,バハオーフェン生誕200年にあたる。
新しい選集が刊行され,1943年にスタートした全集のうち,未刊の第5巻,第9巻が新しい編者を得て,漸く70年ぶりに完結する。バハオーフェン研究はまた新しい時代を迎えようとしている。本書の第2版(1897)及び第3版にあたる全集第2,3巻(1948)は開架図書室に配架されているので是非手にとってご覧いただければと思います。       
(吉原 達也教授/特別書)※翻訳は5F西開架