推薦図書
『国家貴族Ⅰ,Ⅱ-エリート教育と支配階級の再生産―』
- 著者名 : ピエール・ブルデュー著 立花英裕訳
- 出版社 : 藤原書店
- 出版年 : 2012年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2013 Vol.5
フランスが生んだ社会学者で,2002年に惜しくも他界したピエール・ブルデューによる本書は,彼の理論である「文化資本」概念を駆使し,国家におけるエリートつまり国家貴族の様相を具体的に導き出した労作である。 豊富なデータに裏付けされた彼の理論は,最終的に権力や学校といった存在の内実にまで踏み込み,フランスでの官僚輩出の牙城である,つまり究極の学歴である国立行政学院を頂点とする国家貴族の「再生産」(この概念もブルデューの定立したもの)が徹底していく様を描き出す。その背景には,彼の反骨精神が横溢としており,それゆえ国家は何か?それを支える貴族とは何か?といった問いへの答えが繰り返し語られるのである。 このブルデュー理論を日本に当てはめての研究も出てきてはいるようである。しかしながら,まだその咀嚼が充分とは言えない。学歴や官僚といった古くて新しい呪縛からいまだ解放されていないがゆえに,3・11の悲劇も起こったことは衆目も認めるところであろう。日本がいまだに解放されない呪縛から,いかに身を解き放ち,新たな社会像を描き出すか,その大きなヒントが本書に隠されていると言えよう。これからの人たちに向けて大きなメッセージの含まれた本書は,一読に値する。
(黒滝真理子教授/5F東開架)
(黒滝真理子教授/5F東開架)