推薦図書

『階級「断絶」社会アメリカー新上流と新下流の出現』

  • 著者名 : チャールズ・マレー著 橘明美訳
  • 出版社 : 草思社
  • 出版年 : 2013年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2013 Vol.3
皆さんは現在の日本が非常に大きな階層間格差に直面してることを,それこそ子どもの頃からマス・メディアやインターネットを通じて見聞きしていたと思います。我が身の問題と考えていない人が多いかもしれませんが,この国では大学生であるということが実はそれだけで恵まれているのです。それでも,心あれば,何となく下層の人々が身の回りにいることを感じていると思います。
 この本はアメリカ社会の絶望的な断絶について,実に大量のデータを使って明示しています。それだけでなくこの現象がアメリカの伝統的なWASP文化を崩壊させる危機を招き,アメリカが全体社会の統合を失うことを示唆しています。その原因はごく一部の有名大学(院)出身者で構成される,富の蓄積のみを実現している新上流階級の人々が,アメリカ文化の基盤的価値の一つであった相互扶助精神を消滅させている点にあることを非情なまでに実証しています。その他の大学出身者は新上流階級には階層的に排除されています。非大卒は云うまでもありません。
 この状況は独りアメリカだけのものではなく,既に同様な拝金主義が蔓延している日本も中国も直面しています。本書を読むと問題点が見えますが,解決方法は皆さんが大学で修得した知識と想像力と創造力,それに行動力にかかっています。
(小川浩一教授/4F東開架)