推薦図書

『ソーシャル・キャピタル入門―孤立から絆へ』

  • 著者名 : 稲葉陽二 著
  • 出版社 : 中公新書
  • 出版年 : 2011年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.1
昨年の流行語大賞の一つは「きずな」であった。東日本大震災の折に見せた被災者たちの「お互いさま」精神の表象であったことは言うまでもない。きずなが拡がり,深み行けばそこには共通の信頼関係が出来ようし,それの蓄積が出来ればそれは立派な社会的共通財になる。この社会的共通財の規範理論が「ソーシャル・キャピタル」論である。 
本書ではこのソーシャル・キャピタルについて,具体的な事例をあげながら,さまざまな論者たちの議論を首尾よく整理して,それの大枠を示した格好の書である。多くの図表を取り入れて説明されているのも嬉しい。「砂のような大衆」,「孤独な群衆」などの用語を駆使して議論された1960年代大衆社会論の,21世紀的パラダイム転換とも言えよう。社会科学の専門分化が著しい今日,本書は政治経済学分野のみならず,あらゆる社会科学の共通する課題でもある。格差社会が喧伝され,ユーロ危機が迫る昨今,「市場」と「社会(お互いさま=きずな)」・「国家」の関係を再考するためにも是非一読をお勧めしたい。この書をお読みになったら,マルセル・モース『互酬性論』(1924年),カール・ポランニー『大転換』(1944年)へと読み継いでいけば,本書の価値の歴史的意味が理解できよう。人間活動が織りなす社会への提言は,時代を経てより新たな提言へと昇華されるのである。
(藤原孝教授/5F東開架)