推薦図書
『これからの「正義」の話をしようーいまを生き延びるための哲学』
- 著者名 : マイケル・サンデル 著,鬼澤忍 訳
- 出版社 : 早川書房
- 出版年 : 2010年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.1
本著はサンデルが長く大学で行なってきた講義をベースとして書き上げられたものである。その講義は本著が出版される直前にNHKの教育番組で「ハーバード白熱教室」というタイトルで放送され,実に名講義であったことから大変な話題を呼び,本著は政治学関係者をはるかに超えた多数の一般読者を得ることとなった。しかし,本著が正義という厄介なテーマを扱う政治哲学の著作であるにもかかわらず,これ程広く読まれた最大の秘密は,テキストとして画期的な工夫がなされていたからである。それは,正義の問題に関して原理原則から抽象的に論じたり,大思想家の主張を歴史的に解説したりするのではなく,訴訟事件のような現実に発生した問題を巧みに取り上げ,それを多様な視点から論じていく過程で,現在の政治哲学の主要な考え方を説明していくという,その卓抜な方法である。時に読者の度肝を抜くような刺激的問題が提示されて,それらの諸問題をめぐり,最大多数の最大幸福を目指す功利主義的立場,自由主義的立場―これには自由を強調する立場と平等をも加味しようとする立場とがある―,目的を重視し美徳の涵養を目指す立場,更にサンデル自身が与する共同体を重視する立場それぞれからの主張が解説されるが,結局それらの何れも実は最終的解答たり得ないことが指摘され,読者自身を果てしなき思考へと誘うという見事な構成になっている。
(奥村大作教授/4F東開架)
(奥村大作教授/4F東開架)